最新記事

事件

黒人暴行死への抗議、全米に拡大 夜間外出禁止令でも暴徒化したデモ隊と警察が衝突

2020年6月1日(月)16時35分

米中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性が白人警官から首を圧迫され死亡した事件への抗議活動は5月31日、全米数十の都市に広がり、各地で暴徒化したデモ隊と警察が衝突した。ホワイトハウス前で撮影(2020年 ロイター/Jim Bourg)

米中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性が白人警官から首を圧迫され死亡した事件への抗議活動は全米数十の都市に広がり、各地で暴徒化したデモ隊と警察が衝突した。主要都市では31日、夜間外出禁止令が出された。

ミネアポリス近郊の閉鎖中の州間高速道路では同日、タンクローリーがデモ隊に突っ込む事件が発生。ロイターの目撃者によると、運転手はデモ隊によって運転室から引きずり出され、暴行を受けた。その後、警察に拘束された。

ミネアポリス公安局はツイッターへの投稿で、タンクローリーが突っ込んだのは「平和的なデモを扇動する非常に憂慮すべき行為」とし、運転手は負傷したが命に別状はなく、タンクローリーに衝突されたデモ参加者もいなかったようだと明らかにした。

一連の抗議活動の発端は、ミネアポリス近郊で25日、白人警官が黒人のジョージ・フロイドさんを逮捕する際に膝で首を地面に押し付け、フロイドさんがその後死亡した事件だ。

当初は平和的な抗議活動が繰り広げられたが、各地で暴徒化したデモ隊が店舗の窓ガラスを割ったり放火したりするのに対し、警察はゴム弾や催涙ガスを使って強制排除に乗り出した。デモ参加者の多くはマスクを着用しておらず、新型コロナウイルスの感染再拡大への懸念も高まっている。

30日夜は、アトランタ、ロサンゼルス、フィラデルフィア、デンバー、シンシナティ、ポートランド、ルイビルなど複数の主要都市で夜間外出禁止令が出されたにもかかわらず、デモ隊による暴力行為が広がった。

フィラデルフィアは31日、夜間外出禁止令を午後8時から同6時に早め、全ての事業所に閉鎖を指示した。現地テレビではデモ隊が警察車両を攻撃し、放火する姿が映し出された。

首都ワシントンのあるコロンビア特別区は、ホワイトハウス近くで2夜連続で警察とデモ隊が衝突したのを受け、夜11時に外出禁止令を敷いた。

このほかシカゴ、シアトル、ソルトレークシティー、クリーブランド、ダラスなどでも抗議活動が行われ、暴徒化したデモ隊が店舗のオーナーに暴行を加えるなどした。

ニューヨークでは30日夜から31日にかけて約350人が逮捕され、警官30人が軽傷を負った。警察の車が物を投げるデモ隊の中を進む様子をとらえた動画も拡散し、デブラシオ市長は警察の行為について調査を行うと表明した。


=====


ミネアポリスや隣接する州都セントポールでは放火や略奪、破壊行為が5日間続き、ミネソタ州知事は30日、第2次世界大戦以来初めて州兵を総動員すると発表した。

セントポール市長は、約170の店舗が略奪にあい、放火によって焼失した店舗もあると述べた。

小売大手ターゲットはミネソタ州の30店舗を含む100店舗を閉鎖すると発表した。

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は31日、現時点では州兵を連邦政府の監督下に置かない方針を示した。

トランプ大統領は同日、反ファシズムを掲げるグループ「アンティファ」が暴力をあおっているとしてテロ組織に指定する方針を示した。アンティファのメンバーがどの程度デモに参加しているかは不明だ。

トランプ氏は同日午後にツイッターへ投稿で「民主党の市長と州知事は厳しく取り締まるべきだ」と訴えた。「相手は無政府主義者だ。州兵をすぐに動員すべきだ。世界は見ており、あなた方や寝ぼけたジョーのことを笑っている」とした。寝ぼけたジョーは米大統領選の民主党候補指名を確実にしたバイデン前副大統領を指す。

デモは国外にも拡大

警官による暴行に抗議するデモは国外にも広がり、ロンドンでは31日、トラファルガー広場に集まった数百人が「正義がなければ平和はない」などと訴えた。ベルリンでは米国大使館周辺で、フロイドさんの事件に関わった警官の処罰を求める抗議活動が行われた。

1日にはニュージーランド、オーストラリア、オランダでも抗議活動が行われた。

フロイドさんの首を膝で地面に押し付ける様子が動画でとらえられたデレク・ショビン容疑者は殺人容疑で訴追されたが、現場にいた同僚の警官3人は訴追されておらず、デモが収まる兆しは見られない。

米国では2014年にミズーリ州ファーガソンで黒人のマイケル・ブラウンさんが白人警官に射殺された際にも抗議活動に発展しており、政治・人種的な社会の分断が浮き彫りになっている。

*内容を追加しました。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます




20200602issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベゾス氏、製造業・航空宇宙向けAI開発新興企業の共

ワールド

米FEMA局長代行が退任、在職わずか6カ月 災害対

ビジネス

米国株式市場=大幅安、雇用統計・エヌビディア決算を

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロ・円で上昇、経済指標の発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中