最新記事

Black Lives Matter

BLM運動=「全ての命が大事」ではない 日本に伝わらない複雑さ

THE DEEP INSIDE OF #BLM

2020年6月30日(火)12時00分
八木橋 恵(ロサンゼルス在住ライター)

ILLUSTRATION BY FLAGMAN_1/SHUTTERSTOCK

<「黒人の命は」大事なのか、「黒人の命も」大事なのか、「全ての命が大事」なのか――。アメリカでも議論されているBLM運動の複雑さ。2020年7月7日号「Black Lives Matter」特集より>

筆者が住むロサンゼルスで5月末、新型コロナ対策としてさえ行われなかった外出禁止令が敢行された。ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドが白人警官に殺された事件をきっかけに、暴動や略奪事件が相次いだからだ。
20200707issue_cover200.jpg
日本では、NHKによる抗議運動の報じ方が批判されたという。重要な背景を簡略化して描いたことが問題だとされているが、ここアメリカでも黒人差別問題は深く入り組んでおり、簡単には語れない。

「Black Lives Matter」(BLM)と呼ばれる抗議運動の、何が複雑なのか。議論になっているのは、「黒人の命も」大事なのか、あるいは「黒人の命は」大事なのか。また、「All Lives Matter(全ての命が大事)」と同義なのか、という点だ。

筆者が最もふに落ちたのは、あるアメリカ人が掲げていたプラカードの言葉だ。「私たちはBlack Lives Matter と言っている。Only Black Lives Matter(黒人の命だけが大事)とは言っていない。私たちは、All Lives Matter であることは知っている」──。

このプラカードが言わんとしているのは、今「全ての命が大事」と訴えることは論点とタイミングがずれているということだろう。

全ての人の命が大事であることは、平和的にデモを行っている黒人たちももちろん理解している。そんななか黒人差別に抗議する運動をAll Lives Matterと拡大することは、当事者でない者が無意識のうちに「便乗」するのと同じである。

さらに日本では、フロイドがそもそも偽札を使おうとした「犯罪者」だったのでは、という反応もあった。だが、そういう認識を持てること自体がおそらく幸運で、安全な世界で育った証しとも言える。

筆者も含め多くの日本人は、罪を犯しても、警察官に目を付けられても、弁明をする機会を持っている。しかし、アメリカにおいて誰もが等しくその権利を有しているわけではない。また、職務質問や逮捕時に、瞬時に危険がないことを伝えられなければその場で射殺されてしまうかもしれない。

黒人が白人警官に殺されるという事件の本質は、彼らが黒人であるが故に、「武器は所持していないし、抵抗するつもりもない。釈明したいが息ができない」という声が全く聞き入れられなかった点にある。仮に対峙している相手が犯罪者であったとしても、基本的な人権がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ポルシェ、ブルーメCEOの後任にマクラーレン元トッ

ワールド

イスラエルがガザ空爆、26人死亡 その後停戦再開と

ワールド

英EU離脱は貿易障壁の悪影響を世界に示す警告=英中

ワールド

香港国際空港で貨物機が海に滑落、地上の2人死亡報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中