最新記事

中国

WHO演説で習近平が誓ったコロナ後の「失地回復」

Decoding Xi Jinping’s Speech

2020年5月27日(水)19時40分
バレリー・ニケ(仏戦略研究財団アジア研究主任)

WHOはSARS(重症急性呼吸器症候群)の対応などへの反省から、2005年にパンデミック(感染症の世界的流行)の新定義を設けた。それに従えば1月下旬にも新型コロナでパンデミック宣言を出すべきだったのに、実際にはイタリアが全国的なロックダウンを宣言し、アメリカでも感染拡大が深刻化し始めた後の3月11日。宣言の遅れに中国の圧力があったのは明らかだが、習はもちろん無視。それどころか「公衆衛生の分野におけるグローバルガバナンス」の強化を訴えた。

だが、新型コロナについて包括的な調査を行うべきだという世界中からの声の高まりは、さすがに無視できなかったようだ。ウイルスの起源ではなく「グローバルな対応」について「科学に基づく」調査を支持する姿勢を示した。

科学に基づく調査と明言することで、暗に「政治的な批判はお断り」とクギを刺したわけだが、中国自身はWHOに政治を持ち込んでいる。今回の年次総会に、台湾のオブザーバー参加が認められなかったのも中国の反対のせいだ。

演説の中で、習は何度か「人類は運命共同体だ」と語っている。これはヨーロッパの怒りを懐柔する狙いがあったのかもしれない。

5月初め、EUと中国の外交関係樹立45周年を祝って、EU加盟国の駐中国大使が連名で中国紙に寄稿した公開書簡が、検閲・修正されていたことが判明。EUは結果的に受け入れたが異議を唱えていた。習が演説の最後で言及した「我々の地球を守る」という表現は、まさにEU大使たちが書簡で唱えたことだった。

習が示した提言の中でも特に目を引くのは、アフリカに対する手厚い支援の表明だろう。今回のパンデミックでは、どの国も国内の対応に追われ、アフリカは忘れられた存在になりつつある。欧米諸国では、その流れが逆転することはなさそうだ。だが、中国が国際社会で大きな影響力を維持するには、アフリカ諸国の支持が欠かせない。にもかかわらず、中国では4月、中国当局が国内でアフリカ人を差別的に扱っているとして、アフリカ諸国の駐中国大使が抗議する書簡を中国外務省に送り付けていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中