最新記事

香港

「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危機だ」パッテン元総督

Hong Kong's Last British Governor Blasts China, Says It 'Cheats'

2020年5月25日(月)17時35分
ジェイソン・レモン

中国の国家安全法制定の動きに抗議した香港市民に、警官隊は再び催涙ガスを浴びせた(5月24日)  Tyrone Siu-REUTERS

<香港への統制を強化する「国家安全法」をパッテン元総督が強く懸念>

中国政府が香港の統制を強化する「国家安全法」の制定に向けて動き出した。これを受けてイギリス統治時代の香港で最後の総督を務めたクリス・パッテンは中国を強く批判するとともに、香港の自治を守るためにさらなる行動を起こすようイギリス政府に求めた。

「中国は(香港や国際社会を)欺いている。物事を自分たちの都合に無理やり合わせようとし、それを指摘されると、『戦狼』外交官たちがいじめと恫喝を用いて相手を黙らせようとする」とパッテンは英タイムズ紙とのインタビューで述べた。戦狼外交官とは、中国版ランボーとも言われる戦争アクション映画『戦狼』になぞらえ、高圧的で攻撃的な発言をする外交官を指す。

「やめさせなければ、世界の安全度は大きく損なわれ、世界中の自由民主主義が危うくなるだろう」とパッテンは言った。

国家安全法案については、多くの香港住民そして外国の専門家たちが、香港の自治を恒久的に損なう可能性があると懸念している。

香港では24日、数千人規模のデモが行われ、市内各所でデモ隊と機動隊の衝突が起きた。

パッテンはイギリス政府に対し、「私たちが目にしている事態は、共同声明を完全に破壊するものだ」と考えるべきだと主張。共同声明とは1997年の香港返還の際にイギリスと中国の間で交わされた合意文書だ。これによれば香港は「一国二制度」の下で少なくとも2047年までは自治を維持できることになっている。

イギリスは中国に、そんなことは許されないと言うべきだ、と語るパッテン


「中国に香港の人々は裏切られた」

「われわれが目のあたりにしているのは新たな中国の独裁だ」とパッテンはタイムズに述べた。「私の思うに、香港の人々は中国に裏切られてきた。つまり中国は信頼に足る相手でないことを(自ら)証明したわけだ」

パッテンはまた、「イギリスには香港のために立ち上がるべき道義的、経済的、そして法的義務がある」と述べ、「真の危機は、イギリスの対応がまったくもたついていることだ」と指摘した。

「合意文書に調印した以上、われわれには(対応すべき)義務がある」とパッテンは述べた。

<参考記事>香港の自由にとどめを刺す中国、国際社会はどう反応するのか

今回の中国の動きを受け、イギリスとオーストラリアとカナダの外相は連名で「われわれは香港の国家安全に関する法律導入の提案を深く憂慮する」との声明を出した。

声明で外相らは「香港の住民や立法府、司法部の直接の関与なくそうした法律が作られれば、香港に高度な自治を保証する一国二制度の原則は明らかになしくずしにされてしまう」と指摘した。

昨年、中国の習近平(シー・チンピン)政権が逃亡犯条例の改正によって香港の自由と自治への制限を強めようとしたときは、香港では激しい抗議運動が起きた。数千人のデモ隊が警察との衝突を繰り返し、11月に行われた区議会(地方議会)議員選挙では民主派が香港史上例のない地滑り的勝利を収めた。

<参考記事>全人代「香港国家安全法案」は米中激突を加速させる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁

ワールド

NATO、ウクライナへの防空システム追加提供で合意

ビジネス

中国、国内ハイテク企業への海外投資を促進へ 外資撤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中