最新記事

米大統領選

米民主党の「本命」バイデンが苦戦する理由

Biden’s World Experience Proves a Lead Balloon

2020年3月2日(月)16時20分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

ニューハンプシャー州予備選の夜、サウスカロライナ州で開かれた選挙集会で挽回を誓うバイデン SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

<長い経験と実績を武器に、米大統領選の民主党予備選で本命と目されていたジョー・バイデン前副大統領が、急速に支持を失っていったのはなぜか>

ジョー・バイデン前米副大統領は長い議員歴を誇る。上院で初めて重要法案に票を投じたのはベトナム戦争中だった。

米大統領選の民主党予備選のほかの候補者は当時、何をしていたか。バーニー・サンダースはもじゃもじゃヘアの活動家で、エイミー・クロブチャーは中学生。ピート・ブティジェッジに至っては影も形もなかった(彼の両親はまだ結婚していなかった)。

バイデン自身が有権者に盛んにアピールするように、その政治経験、特に幅広い外交経験は比類ないものだ。

「私は現役で活躍している世界の主要な指導者と1人残らず付き合った。彼らは私を知り、私も彼らを知っている」

その指導者たちが彼に電話し、頼むから大統領選に出て、今のアメリカのとんでもない大統領、つまりドナルド・トランプから世界を救ってくれ、世界におけるアメリカの指導的立場を取り戻してくれ、と懇願するのだという。

だが議員歴の長さも華々しい外交実績も予備選では武器にならないようだ。今年の大統領選では民主党支持の有権者は経験、特に外交経験を重視していないらしい。

実際、バイデンの「政治経験アピール」はむしろ逆効果になっている。その証拠に2月11日に行われたニューハンプシャー州予備選では、バイデンは5位に終わり、得票率は8.4%にすぎなかった。

その1週間前に行われたアイオワ州党員集会(民主党予備選の初戦に当たる)でも4位に終わったバイデン。もはや民主党の最有力候補のオーラはなく、多くの選挙専門家が「指名争いから脱落か」と見切りをつけるありさまだ。

それでも本人は2月29日に行われるサウスカロライナ州予備選ではバラク・オバマ前大統領を支持した黒人票に期待できるとして、トップの奪還に望みをつないでいる(編集部注:本記事はサウスカロライナ州予備選前に書かれた。その後、サウスカロライナ州でバイデンは大勝)。

外交実績は評価されず

どうやら左右・中道を問わず、多くの有権者は世界におけるアメリカの指導的立場を取り戻すことなど望んでいない。バイデンがその代表を自任する「トランプ以前のアメリカ」を取り戻したいとも思っていないらしい。

有権者が望むのは新しい何かだ。その何かを代表するのが古い人間であっても......。今や民主党の最有力候補にのし上がった78歳のサンダースは反戦や反自由貿易の旗を掲げ、伝統的な民主党の立場よりもむしろトランプに近い主張を打ち出して過激な変化を巻き起こそうとしている。

大統領制の政治に付き物の皮肉な現象がある。大統領の業績評価では外交実績が大きなウエートを占めるのに、大統領選挙では外交能力は問われないことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米特使、ウ・欧州高官と会談 紛争終結へ次のステップ

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ワールド

中国、来年は積極的なマクロ政策推進 習氏表明 25

ワールド

ロ、大統領公邸「攻撃」の映像公開 ウクライナのねつ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中