最新記事

首脳の成績表

金正恩の成績表:対米交渉は落第点だが、国内経済は意外に悪くない?

2019年12月26日(木)10時45分
浅川新介(ジャーナリスト)

CHEMISTRY=化学 ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<制裁緩和が得られない対米交渉の評価は低く、軍事挑発を再開して緊張が高まれば裏目に出ることも......。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

国民から常に最高の評価を受ける指導者をどうみるかは実に難しい。とはいえ、アメリカとの関係改善は実現したか、そして自国の経済成長はどうか、という2点で評価すれば、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長も自身を決して「良くやっている」と評価はしていないはずだ。

「アメリカが(関係改善のために)態度を変えるかどうか、年末まで待ってみる」と自ら区切った期限が、間もなくやって来る。2018年6月、19年2月、6月の3回、トランプ米大統領への直談判を果たした。そこで非核化を約束すると同時に、経済制裁を一部でも解除したかったはずだ。

だが、2月の首脳会談では合意なしで終わる。トランプはさっさと帰国し、自らも手ぶらで帰国せざるを得なかった。この時の挫折感とアメリカへの不信は、相当なものだっただろう。

2月の会談後、平壌を訪れた在日コリアンや中国人ビジネスマンは、「なぜ合意できなかったのかと人に会うたびにしつこく理由を聞かれた」と口をそろえる。国民はアメリカとの関係改善を待ち望んでいるのだ。

6月の首脳会談は、トランプがツイッター上で金に開催を呼び掛けたことがきっかけだ。異例だったが、2月に生じた険悪な雰囲気を打ち消すかと期待された。だがその成果は一度の実務者協議だけで、後は対話どころかミサイル発射を繰り返して挑発している。関係改善を求める国民の期待を知っているはずだが、今の金には対話でアメリカを動かそうという意思が見えない。

一方で、温泉などの観光地区を設立し、企業や工場を現地視察して国民を鼓舞する姿は連日報じられている。当初は一昨年に完成予定で、自身肝いりのプロジェクトでもある東部の元山葛麻海岸観光地区も2020年春には開業する。国民の歓心を買う事業には余念がなく、リーダーシップの強化には全力で取り組んでいる。

実際、国民にとって最大の関心事である経済は、外部で思われているほど悪くはない。2019年の穀物生産量は前年比でプラスとなりそうだ。物資もそれほど不足しておらず、もちろん餓死者などは出ていない。中国などによる食糧支援などが相当に下支えしているのも事実だ。ただ、低レベルの開発途上国である北朝鮮には、この程度の経済状況は深刻とはいえない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き 副議長ら2人が利

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中