最新記事

ラグビーW杯

「金持ち」イングランドを破った南アフリカの必然

Money Can't Change Everything

2019年11月5日(火)07時00分
長岡義博(本誌編集長)

12年ぶり3回目の優勝を喜ぶ南アフリカ代表チーム Matthew Childs-REUTERS

<大成功のラグビーワールドカップ日本大会は、南アフリカの12年ぶり3回目の優勝で幕を閉じた。グローバル化でラグビーの「南高北低」が崩れつつある中、それでも南アがイングランド有利の下馬評を覆して優勝できた理由は>

ラグビーは足し算ではない。

ラグビーワールドカップ日本大会の決勝を見ながらつくづく思った。南アフリカに初戦で快勝したニュージーランドをイングランドが準決勝で完璧に抑え込んだが、そのイングランドに南アフリカは決勝でほとんどラグビーをさせなかった。

なぜ南アは劣勢の前評判を覆してニュージーランドに並ぶ3回目の戴冠という偉業を達成したか。細かいプレーや戦術の分析は他のスポーツライターに譲る。私は違う観点から、南アフリカ対イングランドの決勝について考えてみたい。

10月27日の準決勝でウェールズに勝利した後、イングランドと決勝を戦うことになった南アのヨハン・エラスムス監督が試合後の記者会見で気になることを言った。

「われわれはイングランド(協会)のようにお金はない。南アフリカのラグビー市場は豊かではない」
「(2年前にヘッドコーチに就任した時は)選手にプロとしての当事者意識がなかった」

そもそも「ノーギャラ」だった

それまで少なくとも建前上、選手すべてが「ノーギャラ」でプレーしていた15人制ラグビーは第3回ワールドカップが開かれていた1995年6月、プロ化容認に向けて動き始めた。そこからラグビーは大きく変わり、選手はプロ契約を選択する者が増え、プレーはより高速に、肉体はより巨大になった。選手はより高額の報酬を求めて世界を渡り歩くようになる。経済的に豊かな国はラグビー市場も豊かだ。南太平洋の島々の肉体的・身体能力的に優れた選手はニュージーランドやオーストラリア、さらにヨーロッパへ。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの選手も、それぞれのラグビー協会が流出を防ぐ手立てを講じなければ、ヨーロッパや日本に移籍するようになった。

決勝を前にしたエラスムスの言葉はイングランドのヘッドコーチ、エディー・ジョーンズとの舌戦の一環あるいは謙遜だろうが、実は南アの本音でもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国の自動車関税措置「極めて遺憾」、日本の除外強く

ビジネス

午前の日経平均は反落、米自動車関税を嫌気 年度末需

ワールド

韓国山火事の死者26人、延焼続く 被害規模は史上最

ビジネス

カナダ首相が中国との貿易拡大に慎重姿勢 「価値共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 5
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    反トランプ集会に異例の大観衆、民主党左派のヒロイ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    中国が太平洋における米中の戦力バランスを逆転させ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 9
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中