最新記事

2020米大統領選

トランプのゼレンスキー大統領との電話記録、ウクライナに痛手 勝者はロシアか

2019年9月30日(月)09時34分

必死の弁明

ブルーベイ・アセット・マネジメントのシニア新興国市場ストラテジスト、ティモシー・アッシュ氏は「ゼレンスキー氏は、米国の元大使やメルケル氏や欧州諸国を足蹴にした上に、バイデン氏に対するトランプ氏の政治工作に手を貸した。これは良い印象はもたらさない。まるでトランプ氏に取り入っているように見受けられる」と指摘した。

ゼレンスキー氏がウクライナを腐敗や汚職のない完全に透明な民主主義国家に生まれ変わらせるという公約を達成してくれるだろう、という世界の投資家の期待とは裏腹に、アッシュ氏のコメントからはそうした道筋の実現に懐疑的な見方が広がっていることがうかがえる。

ゼレンスキー氏はこれまで、ウクライナが電話会談記録を公開するべきだとの声に抵抗してきた。25日にはニューヨークで記者団に対して、トランプ氏が自身の発言だけを開示するとばかり思っていたと語り、独立国家の首脳同士の詳しいやり取りは表に出すべきでない時もあるはずだと強調した。

ゼレンスキー氏はまた、バイデン氏の息子に関する捜査の詳細は知らなかったと弁明するとともに、トランプ氏からの要請があったとしてもそれは世界中の首脳との会話でよくあるケースの1つだと指摘。ウクライナの新検事総長は全ての事案を政治の干渉を受けずに捜査してほしいと付け加えた。

一方で、独仏との関係維持にも気を配り、メルケル氏とマクロン氏の助力には感謝しているなどとし、「私はだれの悪口も一切言いたくない。われわれに手を差し伸べてくれる全ての人をありがたいと思う」とゼレンスキー氏は話した。

ほくそ笑むロシア

それでもウクライナ国内からは、同国は既にダメージを被っているとの声が聞かれる。

シンクタンク、ペンタのボロディミル・フェセンコ氏は「当然ながら欧州の首脳、特にメルケル氏との関係で状況は悪化するだろう。(ホワイトハウスが用意した電話会談記録の要約に)直接的な批判はなかったとはいえ、ゼレンスキー氏の発言の文脈や調子からは、トランプ氏にメルケル氏への不満をぶつけたように聞こえる」と話した。

今回の問題でウクライナの対米関係が損なわれ、米国からの軍事支援などに支障が出てくる可能性があり、それがロシアに利することを心配する向きもある。

ポロシェンコ前大統領の派閥に属するある議員は、ウクライナにとって単独でロシアと向き合わなければならない恐れが出てくるという大変危険な事態で、ロシアは必ずこの好機を活用するだろうと警戒感をあらわにした。

「トランプ氏が事実上ゼレンスキー氏にバイデン氏の弱点探しを依頼し、ゼレンスキー氏が同意したように見える。バイデン氏がウクライナの改革に全力を注いだ後で、ゼレンスキー氏が背後からバイデン氏を刺して、米国の元大使やメルケル氏も道連れにした」と、ブルーベイ・アセットのアッシュ氏はいう。そして、「勝者は誰かと言えば、(ロシア大統領の)プーチン氏だ」と断言した。

Pavel Polityuk Andrew Osborn

[キエフ/モスクワ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米連邦高裁、解雇された連邦政府職員の復職命令に否定

ワールド

一定月齢以下の子どものコロナワクチン接種を推奨=米

ワールド

インド、綿花の輸入関税を9月末まで一時停止

ワールド

中国のレアアース磁石輸出、7月は6カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中