最新記事

米中貿易戦争

通貨戦争にエスカレートした米中対立、追い詰められているのはトランプのほうだ

Once Again, China Is Showing Trump That Trade Wars Are Not “Good, and Easy to Win”

2019年8月6日(火)13時52分
ジョーダン・ワイスマン

株価が今年最大の下げを演じた8月5日、米株式市場は人民元の歴史的安値に反応した(ニューヨーク証券取引所) Brendan McDermid-REUTERS

<圧力一辺倒のトランプに対し、中国が人民元安など本気のカードを切り出した。ここから先トランプには、負けそうな要素しかない>

米中貿易戦争は、ドナルド・トランプ米大統領が言うように「簡単に勝てる」ものでは決してない――ここ数日で、中国がまたしてもその実力を見せつけた。

そもそもの始まりは8月1日、トランプが、9月から新たに3000億ドル相当の中国製品を対象に10%の追加関税を課すと発表し、合意したばかりの交渉より圧力を重視する姿勢を示したと。予定どおり9月1日に関税が発動されれば、中国がアメリカに輸出するほぼ全ての製品に関税が課されることになる。

中国は報復に出た。ブルームバーグの報道によれば、中国政府は国有企業に対して、米国産の農産物の購入を一時停止するよう要請。アメリカの農家にさらなる圧力をかける動きで、ある米アナリストはこれを「10段階評価で11」の大規模な報復行動だと指摘した。

それだけではない。中国政府は8月5日、人民元の大幅な下落を容認した。これによって人民元は、ほぼ11年ぶりの安値を更新した。

中国は自国通貨の価値を積極的に管理しており、近年は大幅な元安を阻止する手を打ってきた。しかし今回は、防衛ラインと思われてきた1ドル=7元を切る下落を容認。狙いは、アメリカでの中国製品の価格を引き下げることだ。トランプによる関税を相殺し、一方で中国における米国製品の価格を引き上げる効果もある。

トランプは、人民元安は中国による為替操作だと非難した


自在に操れる支配力を見せつけた中国

それだけではない。今回の元安容認は、貿易戦争を通貨戦争に発展させても構わない、という中国の意思表明でもある。投資家や企業はこれに強い懸念を抱き、5日の株式市場は大荒れとなった。

ダウ工業株30種平均は767ドル(2.9%)、ナスダックは278.03(3.47%)、S&P500社株価指数は87.31(2.98%)下落、年初来最大の下げを演じ、株安は6日のアジア市場にも波及している。

トランプ政権はその日のうちに、中国を「為替操作国」に指定した。為替相場を是正しなければ制裁を科すという伝家の宝刀だ。中国の反発を招くのは間違いない。

ウォール街が神経を尖らせるのは、米中貿易摩擦に解決の道筋が見えないからだ。トランプは、大統領顧問のほぼ全員の反対を押しのけて、今回の対中関税の上乗せを決めたと報じられている(唯一人反対しなかったのが対中強硬派のピーター・ナバロ通商顧問だ)。

トランプにとって重要なのは、とにかく「勝つ」ことであるように見える。自分が譲らず頑張りさえすれば中国を苦しめ、最終的には屈服させることができると確信しているようだ。だが中国は揺るがない。国内にも海外にも「強い中国」のイメージを見せる必要がある中国にとって、いま引き下がることは弱さを見せることになるからだ。

そして中国の官僚たちには自在に操れるツールがいくつもあるが、トランプにはない。中国の指導部が人民元に対して持つ支配力は、トランプがドルに対して持つ支配力よりもはるかに大きい。また中国企業が何を輸入し、何を輸入しないかの決定に対しても、中国政府はずっと大きな影響力を持っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中