最新記事

医療

10年以内の死亡率を予測できる血液中のバイオマーカーが特定される

2019年8月27日(火)17時00分
松岡由希子

10年以内の死亡率を予測できるように...... LoveTheWind-iStock

<欧州の共同研究チームは、5年から10年以内の死亡率を予測できるヒトの血液中のバイオマーカー(生物指標化合物)を特定した......>

血液検査で余命が予測できる──。欧州の研究チームは、今後5年から10年以内の死亡率を予測できるヒトの血液中のバイオマーカー(生物指標化合物)を特定した。

独マックス・プランク研究所、蘭ライデン大学、フィンランドのオウル大学の共同研究チームは、4万4168名の血液サンプルを分析し、全死因死亡率(原因を問わない死亡率)に関連するバイオマーカー14種類の特定に成功した。一連の研究成果は、2019年8月20日にオープンアクセス誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で公開されている。

男女4万名から血液サンプルを採集、最長16年8ヶ月にわたって追跡調査

研究チームでは、18歳から109歳までのヨーロッパ人の男女4万4168名から血液サンプルを採集し、最長16年8ヶ月にわたって追跡調査を実施。追跡期間中に5512名が死亡した。血液に含まれる226種類の代謝物バイオマーカーと全死因死亡率との関連性を分析した結果、14種類が独立して死亡率と関連していることがわかった。

たとえば、超低比重リポ蛋白質(VLDL)の粒子の平均半径が大きく、総脂肪酸に対する多価不飽和脂肪酸の比率や、必須アミノ酸のヒスチジン、ロイシン、バリンの濃度、アルブミンの濃度が高いと死亡率は低くなる一方、血糖値や、乳酸、イソロイシン、フェニルアラニン、アセト酢酸の濃度が高ければ死亡率は高くなる。

研究チームは、これら14種類のバイオマーカーが実際の死亡リスクを示すのかどうか検証するため、1997年に検査したフィンランド人の患者7603名を対象に分析を行った。被験者のうち1213名は1997年の検査後に死亡している。その結果、14種類のバイオマーカーは約83%の精度で5年から10年以内の死亡率を予測した。この予測精度は、従来の危険因子による予測よりも高い。

高齢者の個別治療に向けた第一歩として

このような血液検査による余命予測は、高齢者の個別治療に向けた第一歩として役立つと期待が寄せられている。

研究論文の責任著者でライデン大学のエリーネ・スラグブーム教授は「暦年齢で一概に高齢者の健康状態を語ることはできない。70歳で健康な人もいれば、複数の疾病にかかっている人もいる」とし、「この血液検査で脆弱な状態にある高齢者を特定できれば、これを見込んだ治療が可能となる。また、新薬が死亡リスクにどの程度の影響をもたらすかを検証するうえでも、この血液検査は役立つだろう」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB金利は適切な水準、インフレ低下は一時的=シュ

ワールド

インド西部で離陸直後市街地に墜落、死者多数 英国行

ビジネス

独主要シンクタンク、25年成長率を上方修正 財政拡

ワールド

IAEA理事会、イラン非難決議採択 イランは対抗措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 5
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 6
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 9
    みるみる傾く船体、乗客は次々と海に...バリ島近海で…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中