最新記事

台湾

反エリートの星「台湾のドゥテルテ」が政界を席巻する

Taiwan Confounded by Populist Mayor

2019年6月14日(金)15時30分
ニック・アスピンウォール

台湾の総統になりたいと思ってはいない、しかし国民党が台湾のために自分を必要とし、総統候補に指名するなら喜んで出馬する。今のところ、韓はそう主張している。

これはフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテが選挙戦で見せたのと同じ手口だ。ドゥテルテも自分が立候補するのは「国を守るため」であり、個人的な野心は全くないと言い続けて大統領の座を手に入れた。

ショッキングな言動で人々の注目を集めることにたけた新世代のポピュリスト政治家は、どこの国でもその人気の秘密を探ろうとする市民やジャーナリストを困惑させてきた。台湾でも同じで、韓の支持者をずっと取材してきた記者たちでさえ、その旋風の原因を真に理解しているとは言えない。

理解不能なのだから、この先も彼に好きなようにほえさせておこう、そして彼が自滅するのを待てばいい。そう考える人もいる。今は感情的に韓を支持している有権者も、いずれ熱が冷めて理性を取り戻せば離れていくと信じる人たちだ。

人気の本質を探るべき

確かに、台湾の有権者はしたたかなリアリストだ。昨年11月の国民投票では、20年の東京オリンピックに「チャイニーズタイペイ」ではなく「台湾」として参加しようという提案を否決している。しかしそうした現実主義が、韓の人気に水を差す気配はない。この男が自滅するという考え方は希望的観測にすぎない。

韓を中国政府による怪しげなプロパガンダの手先に仕立てようとする人もいる。実際、高雄の市長選に際して、中国側がインターネットで韓人気をあおった証拠はいくつかある。それでも、彼が選挙に勝つために意図して中国と共謀したことを示す証拠や、中国による情報操作が韓の人気上昇の主な要因であると示唆する証拠はない。

台湾の主要メディアが首都・台北を拠点とし、もっぱら台北市民に取材している点にも問題がありそうだ。

台湾のメディアは色分けが鮮明で、緑(民進党支持)と青(国民党支持)にはっきり分かれている。一方で首都に集まる外国メディアの報道は、親米派の民進党と蔡の人気を過大評価しがちだが、実のところ蔡の支持率は低迷している。

韓が総統候補になる可能性をめぐってはこれまで、民主主義や米台関係に危険が及びかねないとする多くの報道がなされてきた。だが実際に彼に対する支持のルーツを探り、なぜこれほど多くの台湾住民が(国民党の掲げる)中国との関係改善路線を評価するのかという「気まずい問題」に触れる報道は、それに比べてずっと少ない。

韓がせっせと通う地方部の都市を取材すれば、もっと有意義な報道ができるはずだ。台北以外の有権者は長年にわたり、全てが台北中心で動いている状況に不満を感じてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中