最新記事

事件

ウィキリークス創設者アサンジ容疑者起訴 「報道の自由」巧みに避けた米当局

2019年4月13日(土)12時00分

憲法違反か

米司法省は、アサンジ容疑者とウィキリークスに対する起訴が、合衆国憲法修正第1条で保障された権利を侵害することになるのかどうか、何年も議論してきたと元当局者らは明かす。

彼らによれば、オバマ前政権下の司法省は、ウィキリークスの活動が通常のジャーナリストがしていることと非常に似ているとの見地から、アサンジ容疑者を起訴しないという決断を意識的に下したという。

共謀してコンピューターに侵入したという容疑によって、報道の自由が抑圧されるという懸念は最低限に抑えられ、同容疑者が言論の自由の権利が脅かされていると訴えることが一層難しくなると、一部の法律専門家は指摘する。

「今回の起訴は非常に綿密に策定されているため、より広範な法律的・政策的な影響は軽減されている」と、内部告発者やジャーナリストの代理人を務める安全保障問題に詳しいワシントンの弁護士、ブラッドリー・モス氏は言う。

報道の自由を擁護する人たちは、アサンジ容疑者が諜報活動取締法に違反してマニング元受刑囚から入手した機密情報を公開した容疑で起訴されることを危惧していた。

情報提供者から入手した機密文書をジャーナリストが公開するのは珍しいことではなく、アサンジ容疑者がそのような容疑で起訴されたのであれば、記者も同様の容疑に直面しかねないという懸念が高まっていただろうと、テキサス大の安全保障法専門家スティーブ・ブラデック教授は指摘する。

アサンジ容疑者側は、共謀罪は名目であり、政府が本当に追及しているのは機密文書の公開だと主張する公算が大きいと、同案件に関わっていない複数の弁護士は言う。

ニューヨークとバージニアの両州で連邦検察官を務めたことのあるデービッド・ミラー氏は、アサンジ容疑者がマニング元分析官と通信や接触を行ったとする確かな証拠を米国政府が握っているとすれば、同容疑者の弁護は「苦戦」を強いられるとみている。

検察は、パスワード解読は立派なジャーナリストの範ちゅうをはるかに越えたものだと主張するだろうと、前出のチェズニー・テキサス大教授は指摘。

「すべては、アサンジ容疑者がパスワードをハッキングしようとしたかどうかが争点となる。ジャーナリズムではなく、これは窃盗の問題だと」と、同教授は語った。

マニング元受刑囚は2013年、軍法会議にかけられ、スパイ行為と70万点以上の文書やビデオ、外交電、戦地記録をウィキリークスに提供した罪で有罪判決を受けた。任期終了を控えた当時のオバマ大統領は、禁錮35年の刑に服していた同氏の刑期の最後の28年を減刑した。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

Jan Wolfe and Nathan Layne

[11日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中