最新記事

ネット

「ドナルド・トランプ」という名の犬の悲劇

Shooting of Donald Trump Dog Was Legal Says Sheriff

2019年2月15日(金)16時40分
ジェイソン・マードック

飼い主がネットにアップした「ドナルド」の写真。「隣人に4発撃たれて死んだ」との不正確な記述が復讐コールを巻き起こした GoFundMe

<「ドナルド」が撃ち殺されると、名前が名前だけに「民主党支持者に殺されたのではないか」と騒然となった>

「ドナルド・トランプ」という名前の犬が射殺された。4発撃たれ、苦しんで死んだ。飼い主がトランプの熱心な支持者だったこともあり、トランプが嫌いな人物によるイデオロギー的犯行ではないか、という見方も浮上し、町は不穏な空気に包まれた。いったい何が起こったのか。

ミネソタ州在住の男性ランダル・トム(59)は2月11日、前日に撃たれて死んだ飼い犬の写真をフェイスブックに投稿した。犬種はアラスカン・マラミュートで、トランプが大統領選で勝利した2016年に生まれたことから「ドナルド・トランプ」と名付けられた。「近所の人間に殺された」と、トムは書いた。「クソ野郎のせいでドナルドは14時間以上も苦しんだ。ドナルド、お前のことを本当に愛していたよ」

これに対し、報復と暴力を呼び掛ける投稿が相次いだ。「犯人を8回撃ってやれ」とか、「動物虐待や赤ん坊殺しを平気でするのは、理由もなく何でも殺す奴だ」というコメントもあった。

「ドナルド・トランプ」という名前や政治的イデオロギーが原因で射殺されたのでは、という見方も浮上。「ゲスなリベラル主義者」による犯行をほのめかす者もいた。クラウドファンディングサイト「GoFundMe」でトムの友人が立ち上げたとされるキャンペーンの説明文には、「いまいましい民主党主義者」によって犬が殺されたとあった。

ドナルドを撃った人物の身元は明らかにされていないが、ネット上では噂が一人歩き。民主党支持者と名指しされた住民が脅迫に慄く事態になった。

公共の安全を守る必要に迫られた当局は、事件当日の事実関係の捜査に乗り出した。その結果、ドナルド殺しについて犯罪行為はなかった、と結論付けた。「犬を射殺したのは、私有地内の家畜を保護するためであり、合法的だった」

実はトムは、よくドナルドを放し飼いにした。そのためのトラブルで、近隣住民は過去3年間に14回も警察に通報していた。住民が噛まれた、他の犬に襲いかかった、羊や鶏などの家畜を殺した、牛や鹿を追いかけた、等々。AP通信によると、トムは2015年にも「犬と猫を放し飼いにして」起訴された。

無責任な飼い主とネットのためにドナルドと罪のない住民が苦しんだ。

(翻訳:河原里香)

※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」が好評発売中。平成の天皇像、オウム真理教と日本の病巣、ダイアナと雅子妃の本当の違い、崩れゆく大蔵支配の構図、相撲に見るニッポン、世界が伝えたコイズミ、ジャパン・アズ・ナンバースリー、東日本大震災と日本人の行方、宮崎駿が世界に残した遺産......。世界はこの国をどう報じてきたか。31年間の膨大な記事から厳選した、時代を超えて読み継がれる「平成ニッポン」の総集編です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、ハンガリーで会談へ トランプ氏「2週間以

ワールド

G20財務相会議が閉幕、議長総括で戦争や貿易摩擦巡

ビジネス

経済・物価見通しの確度上がれば、それに応じ政策調整

ワールド

米ロ外相が近日中に協議へ、首脳会談の準備で=ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中