最新記事

北朝鮮

金正恩「親日の血筋」が韓国訪問で暴かれる

2018年12月6日(木)13時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

韓国の思惑で済州島を訪問すれば金正恩は「地雷」を踏むことになる可能性も KCNA-REUTERS

<韓国訪問で金正恩が母方の祖父・高京沢の出身地である済州島を訪れれば、大阪出身の母親・高ヨンヒの出自が明らかになり「親日派」のレッテルを貼られるかもしれない>

北朝鮮の金正恩党委員長の「不都合な出自」が、いよいよ白日の下にさらされるかもしれない。金正恩氏は、9月に平壌で行われた南北首脳会談で訪韓の意思を表明。支持率低下に悩む韓国の文在寅政権は、年内の訪韓実現を目指している。

タイムリミットは目前である。金正恩氏が12月中に訪韓することは、人権問題や様々な国際環境に照らせば極めて困難に思える。何よりも北朝鮮側の熱が冷めてきているようにも見える。

それでも、韓国政府はあきらめが悪い。文在寅氏は先月28日、「金正恩氏が訪韓したら何を見せたいか」という記者の質問に対して「済州島」だと答えたという。だが、これは「地雷」を踏む可能性が高い。

文在寅氏は9月に訪朝した際、金正恩氏と白頭山に登ったことから、その返礼の意を込めているのだろう。金正恩氏といっしょにヘリコプターで済州島にある韓国の最高峰・漢拏山(ハルラサン)を見物することも議論されているというが、あまりにも脳天気すぎないだろうか。

金正恩氏の実母は大阪出身の高ヨンヒ氏だ。

さらに高ヨンヒ氏の父親、つまり金正恩氏の母方の祖父である高京沢(コ・ギョンテク)氏は済州島生まれで、済州島には高京沢氏の記録が残っている。後に日本にわたった高京沢氏は、第二次世界大戦中に旧日本陸軍が管轄する工場で働いていた。北朝鮮の基準からすれば「親日派」というレッテルを貼られてもおかしくないのだ。

参考記事:偽造旅券で日本潜入、金正恩一家の行き先は「美空ひばり記念館」

もちろん、日本の支配下にあった当時の朝鮮人に、仕事を選ぶのに「親日行為に当たるか否か」など考えている余地はなかった。日本に留学した若者の中からも独立運動の闘士が出ていることを考えて見れば、ほとんどナンセンスな議論でもある。

しかし、北朝鮮は金日成主席に始まる「白頭の血統」の歴史をウソで固め、完全無欠な愛国者に仕立て上げたお国柄である。高京沢氏の経歴は、十分に「ノーサンキュー」に違いないのだ。

金正恩氏が済州島を訪問、あるいは漢拏山を見物すれば韓国のメディアだけでなく、世界のメディアが「金正恩氏が母のふるさとを訪れた」と報じることは間違いない。祖父が日本軍と関係があったことも大きく報じられ、こうした情報は北朝鮮内部にも密かに流入するだろう。

参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

北朝鮮当局のプロパガンダに飽き飽きしている庶民は、「元帥様は親日派の血統」「白頭血統ではなく漢拏山血統、いや富士山血統だ」などと揶揄するかもしれない。

金正恩氏が自ら正当化してきた「白頭の血統」に大きな傷がつくことを、果たして彼自身が望むだろうか。

文在寅氏の支持率は見る見る下落している。それでも南北関係については一定の評価を得ている。金正恩氏の訪韓によって支持率上昇のきっかけをつかみたいのかもしれない。が、安易な意図が北朝鮮側に読み取られると、金正恩氏によって逆に手玉に取られるかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

伊ウニクレディト、独コメルツ銀の30%超取得へ公開

ビジネス

英CPI、ノンアルビールやフムス採用 健康志向反映

ワールド

ミャンマー議会、クーデター以来初めて召集 軍の支配

ワールド

イラン無力化すれば原油価格は大幅に下落、トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中