最新記事

記者殺害事件

カショギは皇太子ではなくトランプを批判して殺された?

Khashoggi's Troubles Started After He Criticized Trump

2018年11月22日(木)15時39分
ジェイソン・レモン

トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館でカショギ殺害に抗議するデモ Osman Orsal-REUTERS

<カショギはムハンマド皇太子への批判で有名だが、彼に対する弾圧が始まったのは、アメリカ大統領に選出されたトランプを批判し、外交の矛盾を突いてからだ>

トルコにあるサウジアラビアの総領事館内で殺害されたサウジの反体制派ジャーナリストで、米紙ワシントン・ポストのコラムニストだったジャマル・カショギは、サウジによる隣国イエメンへの軍事介入やムハンマド・ビン・サルマン皇太子による反体制派の弾圧を批判したことで有名だ。だが彼の悪夢が始まったのは2016年後半、米大統領選で勝利したばかりのドナルド・トランプを批判してからだった。

米国務省の報告書によれば、カショギがアラビア語紙「アルハヤト」に寄稿したこのコラムは、サウジの政治的圧力によって掲載が取り止めになった。そしてその半年後、カショギは「サウジに戻れば逮捕される恐れがある」と言って、逃げるようにアメリカへ亡命した。

「2016年にサウジ当局がカショギの執筆活動やテレビ出演、会議出席を禁止したのは、トランプ大統領に対して批判的と解釈される発言を行ったからだとみられている」と、同報告書にはある。

米ビジネス・インサイダーによれば、カショギは件のコラムにこう書いた。「大統領就任後のトランプが候補者だった頃とは別人のように賢明になる、と思ったら大間違いだ」。彼はトランプの外交政策についても「矛盾している」と批判。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やシリアのバシャル・アサド大統領と仲がいいのは、イランを批判するトランプの立場と相いれない、と言った。「外交アドバイザーたちが地図を見せれば、トランプは気づくだろうか。プーチンを支持することはイランを支持することにほかならない」

共和党も呆れるサウジ支持

そのコラムに懸念を募らせたのがサウジだった。サウジはイランを中東最大のライバルとみなし、イランが後ろ盾となっているアサド政権を倒すためにシリアの反政府勢力を支援しているからだ。カショギが公の場での言論活動を禁じられたのは、トランプ外交の矛盾を突いてからだ。

それから2年も経たない今年10月2日、カショギはトルコのイスタンブールにあるサウジアラビアの総領事館に入り、殺害された。サウジを事実上支配するムハンマド皇太子の指揮下にあるといわれる十数人の暗殺部隊が殺害を実行し、遺体を骨用のこぎりでバラバラにした。サウジは事件発覚当初、殺害を否定。数週間後になって、カショギは「計画的に殺害された」と認めた。だが今もムハンマドやその父サルマン国王を事件から遠ざけ、彼らによる一切の関与を否定している。

トランプはムハンマドの関与があったかどうかについて明確な態度を示してこなかったが、11月20日に声明を発表し、同政権はサウジとの友好関係を維持すると発表した。彼はイランの脅威に対抗する上でも、巨額の武器を買ってくれる顧客としても、サウジとの関係は重要だと強調し、サウジと共に立つという決断は「アメリカ第一主義」でもあると主張した。そしてサウジのことを「偉大な同盟国」と呼んだ。

これに対しては、与党の共和党議員からさえ批判が続出している。共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)はトランプの「アメリカ第一主義」は「サウジアラビア第一主義だ」と皮肉った。マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)は、「人権保護はアメリカの国益にかかわる」とツイート。ジェフ・フレーク上院議員(アリゾナ州選出)は「偉大な同盟国はジャーナリストを計画的に殺害したりしない」と述べた。

(翻訳:河原里香)

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中