最新記事

新興国経済危機

通貨危機アルゼンチンが抱える構造問題

THE WAY OUT OF ARGENTINA’S NEW CRISIS

2018年9月13日(木)16時30分
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)

IMFが融資に乗り出したが、「口出し」に反発する市民も MARCOS BRINDICCI-REUTERS

<米金利の上昇が引き金となって通貨安とインフレが加速――マクリ政権の財政再建路線は脆弱経済を変えるのか>

マサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執った著名な経済学者ルディガー・ドーンブッシュは80年代、学生たちにこう語っていた。世界には4種類の国がある。豊かな国、貧しい国、日本、そしてアルゼンチンだ――。

驚異的な経済成長を遂げた日本を特別視する声はもはや聞かれなくなった。一方、アルゼンチンが世界経済に危機をもたらすという懸念は、今も時々再燃する。

最近も再び、通貨アルゼンチンペソの急落が国際社会を震撼させている。4月下旬、10年物米国債利回りが2014年以来初めて3%台に上昇すると、ドル買いペソ売りが一気に加速。アルゼンチン当局は短期間に3度の利上げを繰り返して、政策金利を40%にまで引き上げた。加えて、IMFにも支援を要請。おかげで、ペソ相場はいったん落ち着きを取り戻したかにみえた。

そこに今度はトルコリラの急落が襲い掛かった。これに連動してペソ相場は再び下落し、1ドル=30ペソと対ドルで史上最安値を更新。アルゼンチン中央銀行は8月13日、政策金利をさらに5%引き上げて45%にすると発表した。だが、ペソ売りの圧力は弱まっていない。

アルゼンチン経済はなぜこれほど脆弱なのか。通貨危機を繰り返さないために、当局はどのような対策を講じるべきなのか。

15年12月、アルゼンチンに新たな大統領が誕生した。実業家出身で中道右派のマウリシオ・マクリだ。

大衆迎合的な政策で放蕩財政に明け暮れた前任者たちと比べれば、マクリと彼の経済チームは劇的に有能だ。国政の経験者が不在だったため、アナリストらは当初、政権の手腕を評価していなかったが、マクリはここまでのところ、有能な指導者と抜け目ない政治家の顔を両立させてきた。

信用不安が真っ先に飛び火

しかし通貨危機は、そんな善良な政権にも容赦なく襲い掛かる。始まりは昨年12月に行われた記者会見での不運だった。

この会見では、18年のインフレ抑制目標が従来の8~12%から15%に緩和されることが発表された。当時の経済状況を考えれば妥当な修正だったが、会見の席に中央銀行総裁と共にマルコス・ペニャ官房長官やニコラス・ドゥホブネ財務相が同席。政治的な介入ではないかとの懸念が広がった。

アルゼンチンの通貨政策はインフレ目標と変動為替相場を基盤としている。しかし今年3月、通貨安とインフレの進行を受けて、中央銀行は為替相場を1ドル=20ペソ程度に落ち着かせるべく再び介入に乗り出した。当然、投資家からは政策路線を変更するのかと問う声が上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中