最新記事

北朝鮮

北朝鮮の邦人拘束事件は、日朝交渉を優位に進めるためなのか? 

2018年8月13日(月)19時30分
中野鷹

板門店の北朝鮮兵士 Yonhap-REUTERS

<10日に北朝鮮で日本人が拘束された事件は、北朝鮮の公式発表がなく情報が錯綜しているが、中国サイドから入った情報をまとめてみる>

10日の深夜に明らかになった北朝鮮で日本人が拘束された事件は、いまだ北朝鮮からの公式発表はなく情報が錯綜している。しかし中国サイドから入ってきた情報も踏まえてまとめてみると、 拘束されたのは、滋賀県出身の映像クリエイターS氏39歳。過去に複数の訪朝経験があり、利用した旅行会社は、中国でイギリス人が経営する旅行会社である可能性が高いという。同社は北朝鮮へのグループツアーを提供している。

人質的に拘束された可能性

この情報通りであれば、この旅行会社は、2016年1月に平壌で拘束、翌17年に昏睡状態で開放され、帰国直後に死亡したアメリカ人大学生オットー・ワームビア氏を手配した旅行会社と同じとなる。

S氏が拘束されたと見られるのは、平壌から西南へ約60キロメートルとほど近い南浦。南浦は、日本統治時代から港町として知られ現在でも平壌の外港として中国大連などと国際貨物航路を持つ重要エリアだ。北朝鮮の重要拠点=多くの軍事施設という構図なので当然ながら軍関連施設も多い。S氏は南浦の軍事施設を撮影したスパイ容疑で拘束された可能性が高いという。

S氏はなぜ拘束されたのか。「北朝鮮が日本政府との交渉材料にしようと数年前までのアメリカ人のように、いわば人質的に拘束された可能性があります。アメリカの例を見ても、大統領経験者などが自ら訪朝して解放交渉に応じたりしてきた歴史があります。今度は日本に対して同じようなことをしてきたのではないでしょうか」(北朝鮮研究者)

また、ワームビア氏の1件以降、この旅行会社自体が北当局にマークされており、狙い撃ちにされたのではないかとの見方もある。

中国人もスパイ容疑で拘束されている

実は表にはほとんど出てこないが、最大の友好国とされる中国人も、北朝鮮でスパイ容疑によって複数人が拘束されている。長期拘束はされていないものの、裁判を受けさせられて多額の罰金を課せられ国外追放、再入国禁止処分となっている。

中国の旅行会社によると、スパイ容疑で拘束された中国人は、単独行動で軍や労働党の重要施設を撮影して拘束されるという。しかも朝鮮語ができる少数民族の朝鮮族ではない漢民族などで、油断させるためか若い女性が多いそうだ。

北朝鮮では、国籍問わず、旅行客には常時ガイドが随行するため、旅行者の行動は常に監視されており、個人行動は原則できない。またガイドに案内される場所に撮影されて問題があるスポットはまずないし、万が一、軍人や撮影されては問題があると判断した場合は、その場で即削除を求めてくる。撮影しても削除すればそれで終わる。

つまり、北朝鮮の官製ツアーにおいては、ガイドの指示に素直に従っていれば大きなトラブルに発展することは考えにくいのだ。

「拘束された日本人が、南浦のホテル滞在中にガイドなしで深夜や早朝にホテルを抜けけ出して、単独行動をしたのではないでしょうか? 北朝鮮では単独行動をして撮影などをすれば、それだけでスパイ行為と見なされる恐れがあります」(中国の旅行会社)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応

ビジネス

イタリア、中銀の独立性に影響なしとECBに説明へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中