最新記事

中国

「BRICS+」でトランプに対抗する習近平──中国製造2025と米中貿易戦争

2018年8月10日(金)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

2014年、「国家新型城鎮化計画」(2014年~2020年)が発表され、農民工の出身地である内陸部を都市化して、沿海部の農民工を内陸の都市に戻していく政策が実行に移された。

それと同時に、製造に関する「量から質への転換」が推し進められ、「産業革命」の必要性に迫られた。なぜなら、低賃金労働に関しては東南アジアの発展途上国が中国に取り替わって「世界の工場」の役割を果たし始めて中国を追い込み、それでいながら中国の生産技術の多くは「借り物」であって、中国は依然として「組み立て工場」に過ぎなかったからである。

そこで「2025」では、「イノベーション駆動、品質優先、環境保全型発展、構造の最適化、人材本位」など5つの基本方針を打ち立てて、その実現の時期に関しても指標を示した。

すなわち、「2025年までに製造業の基礎部品(パーツ)の核心技術に関して、70%を中国自身が製造(メイド・イン・チャイナに)する」としたのである。

これはたとえば、中国ではスマホやパソコンなど、膨大なメイド・イン・チャイナ製品をアメリカなどに輸出しているが、現在は各パーツの90%ほどをアメリカや日本などから輸入していて、中国ではただ単に「組み立てている」に過ぎない。このままでは中国はいつまでも後進国で、先進国の工場から抜け出すことができないので、各パーツをも、少なくとも70%は中国自身が製造できる核心技術を持たなければならないということを目指したのである。つまり主要産業の70%を中国の国内産業が占めなければならないということになる。

これをトランプ側から見れば、「もし中国が核心技術の70%をもメイド・イン・チャイナにしてしまえば、アメリカが中国との技術革新に負けてしまい後進国に転落してしまう」という危機感を抱かせるものとなることは明らかだ。

一方、中国は、「2025」を達成するために、アメリカなど外国企業の中国市場への参入の際に、必ず「技術移転」を強要して、交換条件を求めるようにしている。これでは「頭脳が丸ごと盗まれる」、「知的所有権の侵害だ」として、この「2025」計画を阻止するために発動しているのが、トランプの対中貿易戦争の真髄だと言っていいだろう。

中国がやがてGDPにおいて「量的」にアメリカを抜く可能性は否定できないが、そのときに「質的」にも凌駕されたら、中国が正真正銘の世界一になってしまい、アメリカは西側先進諸国とともに後進国に転落してしまうのだ。

そんなこと、許されるはずがない。トランプはそう思っているに違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中