最新記事

BOOKS

高齢ドライバー問題は、日本の高度経済成長が生んだ!?

2018年7月31日(火)17時00分
印南敦史(作家、書評家)

70歳を超えて自動車を運転する人は、1980年代までは限られたごく一部の男性だったものの、90年代後半には大半の男性に変わったのだそうだ。個人的には80年代のドライバー人口の少なさを意外にも感じたが、それはともかく21世紀の四半世紀が経過する頃には、ほぼ全ての男女が高齢ドライバーになりうる。すなわち、今後10年以内に男女問わず大半の高齢者が車を運転する時代になるということだ。

このことについて執筆者のひとりである所は、自動車の運転が大半の高齢者の日常生活に組み込まれることは画期的な社会変革であることを認めている。また、それに伴う新たな問題が必然的に発生していくことが予想されるため、我々は21世紀の重要な社会問題のひとつとして、このことに取り組んでいかなければならないとも主張している。

また、その大前提として注目しておくべきは、車社会が本格化しはじめた1970年代の変化。あの時代には高度経済成長の波に乗り、自動車が地方都市の道路へ急激に進出していった。地方都市の交通では、経済効率の高い自動車だけが生き残り、60年代まで人々の重要な移動手段であった路面電車や自転車が一気に駆逐されてしまったのである。

そのため日本の地方都市は、自動車交通を根幹に据えた形へと再構築を迫られ、量販店、病院、公共施設は、広い駐車場を確保するため郊外へ移転することとなった。その結果、全国の地方都市中心部が空洞化し、街中の人通りが激減。かくしてシャッター街が増加していったということだ。

そして郊外には、自動車でしかアクセスできないニュータウンが次々と出現して活性化していくことになる。このような動きのなか、高齢者が郊外へ移転したスーパーや病院に出向くようになったため、唯一の移動手段としてのマイカーは必要不可欠なものとなる。また先にも触れたとおり、これは都市郊外の人々にも同じことが言える。


 一九八〇年代以降、マイカーによる移動を大前提として、日本の地方都市が新たな街づくりを進めてきた政策の限界が、超高齢化社会を迎えた現在、まさに露呈したと言わざるを得ない。日本の多くの高齢者が、これまでの生活を維持していくためには、少々の健康上の問題が生じても、運転免許を持つことに執着せざるを得ない理由の一つがここにある。(64ページより)


運転免許を手放せば、日常生活が著しく不便になり、サポートシステムがほとんど整備されていない地域が、日本の地方社会には多い現実にも目を向けなければならない。加えて、運転することは、高齢者にとって「自立の象徴」でもあるため、運転が可能である以上、運転免許を手放すことを受け容れられない高齢ドライバーが圧倒的に多い。そのため、この問題は、大きな社会問題の一つになっているわけである。(73ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中