最新記事

ドイツ

人種差別を理由に代表引退のエジル そしてドイツでわき上がる論争

2018年7月26日(木)17時20分
モーゲンスタン陽子

エジル代表引退をきっかけとして、人種差別論争がわきあがっている REUTERS/Dylan Martinez

<ワールドカップで惨敗したドイツ代表の中で、非難を浴び続けたのが、トルコ系のメスト・エジル選手。人種差別の問題が複雑に絡みドイツで論争がわき上がっている>

フランスが2018年FIFAワールドカップでの快進撃に沸く一方で、まさかの一次リーグ敗退を喫した前大会優勝のドイツは、その「犯人探し」に躍起になっていた。敗北はチームやサッカー協会全体の責任であるはずなのに、スケープゴートとして非難を浴び続けたのが、トルコ系のメスト・エジル選手だった。

エジル選手はドイツ生まれで、ドイツ国籍だ。にもかかわらず、非難が集中した理由がそのプレイではなく、人種的バックグラウンドだった。そして、不当な人種差別を理由に、エジル選手は22日、「(かつては誇りに思った)ドイツのユニフォームをもう着たくない」と、ナショナルチーム引退を表明。これを機に、ドイツで新たな人種差別論争が巻き起こっている。

スケープゴートはもうたくさん

エジル選手は22日、自身のツイッターに三部構成の声明文を発表。「差別と礼儀を欠く扱い」を理由に、ナショナルチームからの引退を表明した。2014年大会でのドイツ優勝への貢献、そしてそれ以前の功績をも忘れてしまったかのようなファンやドイツメディアに対しては「必要とされていない」と感じ、ドイツサッカー連盟(DSB)のラインハルト・グリンデル会長においては名指しで「もうこれ以上(グリンデルの)職務遂行能力の欠損と不能のスケープゴートにはならない」と非難した。

エジルの決断は瞬く間に、ドイツ内外に複雑な反応を呼び起こした。元サッカー選手で現FCバイエルン会長のウリ・ヘーネスはエジルの声明を受け、「せいせいする。あいつは何年も悲惨なプレイしかしてこなかった」と辛辣な言葉を浴びせたが、これには業界からもヘーネスに対する批判が起こった

一方で、多くのチームメイトや著名人、一般市民がエジルを擁護している。ハッシュタグ#IStandWithOzil(私はエジルの味方)はツイッターであっという間に世界的トレンドとなった。


エジルの故郷、ゲルゼンキルヒェンの住民もエジルをサポートしている。その他、政府を含め有力各紙も、ヘーネスやドイツサッカー連盟のグリンデルに対して批判的な論調だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

べネズエラ沿岸付近に戦闘機5機、国防相が米国を非難

ビジネス

テスラ第3四半期納車が過去最高、米の税控除終了で先

ビジネス

ホンダ、ブラジルの二輪車工場に440億円投資 需要

ビジネス

マクロスコープ:生活賃金の導入、日本企業に広がる 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中