最新記事

中朝関係

中朝関係に立ちはだかる南北朝鮮の民族意識

2018年6月30日(土)15時00分
謝韜(シエ・タオ、北京外国語大学教授)

金正恩は習近平に米朝首脳会談の「結果報告」をするため3度目の訪中をしたと言われている(6月20日) KCNA-REUTERS

<米朝会談の陰の勝者とも言われる中国だが、南北朝鮮の民族意識を無視すればツケを払わされることに>

歴史的な米朝首脳会談から2週間。確かにトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が会ったことは画期的だが、朝鮮半島の非核化に向けた具体的取り決めはもちろん、朝鮮戦争に終止符を打つ条約締結もなかった。

だが、中国には「千里の道も一歩から」ということわざがある。その意味では、米朝首脳会談は北東アジアの恒久的な平和に向けた一歩になる可能性がある。では中国はトランプ・金会談をどう受け止めたのか。

金は6月12日の会談前に、中国を2回も訪れて習近平(シー・チンピン)国家主席と会談を持った。また金は、中国国際航空のボーイング747型機でシンガポールに乗り込んだ。米朝首脳会談が実現する上で、中国は大きな役割を果たしたと言うことができるだろう。

中国と朝鮮半島の関係を考えるとき、歴史的な文脈を忘れてはならない。多くの中国人にとって北朝鮮といえば、朝鮮戦争のとき多くの中国人の命を犠牲にして守った国であり、その後もほぼ無条件で経済的・外交的支援をしてきた国だ。当然、北朝鮮からたっぷり感謝と忠誠を得られると思っている。

だが、南北を問わず多くの朝鮮人が記憶する中国との関係は、もっと大昔にさかのぼる。朝鮮半島は何世紀にもわたり中国の朝貢国家で、その文化的・政治的影響を強く受けてきた。

その反動もあり、近代の朝鮮半島には中国に対する強力な民族意識が存在する。漢字に代わりハングルの普及が推進されたのは、その一例と言えるだろう。

それは現代政治にも影響を与えているようだ。11年に北朝鮮の最高指導者の座に就いた金は、今回の米朝首脳会談まで3カ月を切ったとき初めて、中国公式訪問に踏み切った。

中国への反感で結束?

北朝鮮だけではない。中国と韓国は92年に国交を樹立して以来、強力な経済関係を築いてきた。ところが16年に朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)が、THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決めると、中韓関係は一気に冷え込んだ(中国は在韓米軍が配備するTHAADが中国の安全保障を脅かすと主張してきた)。中国は、韓国の一部企業を中国国内で営業停止処分にしたり、韓国向けの団体旅行を禁止するなど報復措置を取り、韓国経済に打撃を与えた。

多くの韓国人から見れば、それは中国の外交的・経済的なごり押しであり、苦い歴史を思い起こさせたに違いない。THAAD配備後に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領としては、中国に対する立場を強化することも、北朝鮮との関係を改善したい理由の1つだっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中