最新記事

北朝鮮情勢

中国、「米朝韓」3者終戦宣言は無効!

2018年6月7日(木)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

6.青瓦台(チョンワデ)(韓国の大統領府)の考え方は「政治的意義における終戦宣言は南北米3者で、制度保証を含めた平和協定(終戦協定)は中国を含めた4者でというのではないだろうか」と分析する者もいるが、韓国の柳宗夏・元外務部長官は「朝鮮日報」で違う見解を述べている。彼は「中国は朝鮮戦争および休戦協定の当事国なのだから、終戦宣言および平和協定を締結するときは、当事国として参加しなければならない」とした上で、「それは名義上のことだけではなく、実際に重要な役割を果たしたのだから」と指摘している。

7.半島の終戦宣言から中国を追い出す? 悪いが、われわれは当事者そのものなのだ。

環球時報・軍事サイトも

「百家号」というウェブサイトは、「環球時報・軍事」にある<文在寅は中国を除け者にして終戦宣言をしようとしている。韓国高官、中国なしはあり得ないと>という見出しの報道を掲載している。上記の環球時報と類似の内容だが、そこには「アメリカは韓国が米朝首脳会談に割り込んでくるのを嫌がっているっていう報道があったよね。そんなことをしたら、トランプの面目をつぶすではないか」という文章が入っているのが興味を引いた。

中国の老幹部は

もうかなり前に現役を退いている高齢の中国の老幹部と話をした。彼もまた怒りを抑えきれないようだった。概ねの内容を以下に示す。

――米朝首脳が対話によって問題解決をするというのは大歓迎だ。中国は長いこと、そうしろと言ってきたのだから。だから政府としてはあまり正面を切って平和体制構築過程における「中国外し」を声高に非難するのはしにくい。しかし、どれだけの犠牲を当時の中国人は払ったと思っているのか。毛沢東が朝鮮戦争を起こすべきではないと、あれだけ反対したのに、金日成(キム・イルソン)はスターリンを使って毛沢東を追い込み、無理やりに朝鮮戦争に参戦させた。私の兄も友人も、あの戦争で命を失っている。

休戦協定では3ヵ月以内に他国の軍隊は半島から撤退することとなっていたので、中国をはじめ多くの国は次々と撤退していったが、米軍だけは休戦協定に違反して半島に残り続けた。トランプは、そのことを自覚しているだろうか?

米韓同盟自体が、休戦協定違反なのだ。

そのことを認識していれば、終戦宣言をした瞬間に、在韓米軍は撤退しなければならなくなることに気が付くはずだ。

何よりも重要なのは、終戦宣言をしてしまったら、(北)朝鮮に対する制裁を維持することは困難になるということだ。トランプはやがて、自分で自分の首を絞めることになるだろう。

金正恩も同じこと。核・ミサイルで対抗しようとしたのは、そもそもが自殺行為。少なくとも私個人は、金正恩のことも文在寅のことも信用していない。どんなにいい顔を見せても、陰では中国を裏切っている。さもなかったら、3者会談という発想は出て来ない。これは断言できる!


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中