最新記事

医療

空前の「がん治療薬」開発競争、投資家が味わうジレンマ

2018年5月15日(火)08時40分

5月2日、欧米や中国で新種のがん治療薬の開発競争が激しさを増し、技術革新の速度も速まってきた。写真はスクリーンに映ったがん細胞、ドイツの国際見本市CeBitで2012年撮影(2018年 ロイター/Fabian Bimmer)

欧米や中国で新種のがん治療薬の開発競争が激しさを増し、技術革新の速度も速まってきた。患者にとっては朗報だが、投資家は多数の中でどの企業が成功を収めるか見極めるのが難しく、ジレンマを味わっている。

英国の小規模なバイオ技術企業、オートラスはキメラ抗原受容体T細胞(CAR─T細胞)の開発に手ごたえを感じ、米ナスダック市場への上場を計画中だ。CAR─T細胞療法はがん免疫療法の1種で、オートラスのほかにも多数の企業が開発を競っている。

研究開発に多額の投資が行われているのは欧米だけではない。ロイターによる最新データの分析によると、中国で行われているCAR─T細胞療法の臨床試験は162件と、米国を上回っている。

がん免疫療法全体で見ると、医薬品の種類は2000以上と空前の数になる。各企業は独自の薬を開発しようとしのぎを削っているが、多くは似通った薬だ。

ファーマプロジェクツのデータベースによると、現在研究・開発中のがん治療薬は全体で5200種で、1年前に比べて7.6%増えた。科学者は臨床試験用に十分な数の患者を確保するのに苦労するほどだ。

開発中の新薬全体に占めるがん治療薬の割合は、2010年の26.8%から現在は34.1%に拡大した。新たな療法が成功すれば年間の治療費が10万ドルを超えることも多い有望分野とあって、企業が資源を集中させている。

投資選別は慎重に

スイスのノバルティスと米ギリアド・サイエンシズがそれぞれ開発したCAR─T細胞療法が昨年初めて、希少な血液がんの療法として米食品医薬品局(FDA)の承認を得たことで、がん治療の世界が一変する可能性が現実味を帯びた。

この療法が固形がんにも効くようになれば、なおさら希望は膨らむ。

しかし、数多くの医薬品企業とバイオ技術企業ががん治療分野に殺到する状況は、投資家にとっては痛しかゆしだ。よく似た製品がひしめいているため、どの企業が商業的な成功を収めるかの見極めが難しい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米サステナブルファンド、1─3月は過去最大の資金流

ビジネス

北京市、国産AIチップ購入を支援へ 27年までに完

ビジネス

デンソー、今期営業利益予想は87%増 合理化など寄

ビジネス

S&P、ボーイングの格付け見通し引き下げ ジャンク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中