最新記事

核開発

目には目を! トランプの核合意破棄へイランが取りうる「報復シナリオ」

2018年5月10日(木)16時00分

5月3日、トランプ米大統領は、8日にイラン核合意からの離脱について決断する見通しだ。写真はウィーンのIAEA本部前ではためくイラン国旗。2016年1月撮影(2018年 ロイター/Leonhard Foeger)

トランプ米大統領は、8日にイラン核合意からの離脱について決断する。イランは2015年、米英仏露中の国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6カ国と核合意を結び、経済制裁の一部緩和と引き換えに核開発を制限することに同意した。

だが米国の脱退により、合意全体が崩壊する可能性がある。

そうなれば、イランは、米国やその同盟国の中東における利益を脅かすことにより、報復する可能性がある。

想定されるイランによる「報復」シナリオを検証した。

イラク

イスラム系過激派組織「イスラム国」が2014年にイラクの大半を手中に収めた時、イランは即座にイラク政府支援に動いた。以来、イランはイラクで何千人ものイスラム教シーア派民兵に武器を提供し、訓練を実施するなどして支えてきた。これら「人民動員隊(PMF)」は、重要な政治勢力となっている。

もしイラン核合意が崩壊すれば、イランが、イラクからの米国撤退を望むPMF勢力に向けて、米軍に対する口先、もしくは軍事的な攻撃を強めるよう促す可能性がある。

この場合、攻撃は特定のシーア派武装組織が直接関与しない、ロケット砲や迫撃砲、または道路脇に仕掛けられた爆弾といった方法で行われる可能性がある。これにより、イラクで米軍との直接衝突を避けるという立場を転換していないとイランが主張することができる。

シリア

イランや、同盟関係にあるレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」などの武装組織は、2012年に勃発したシリア内戦に参加している。イランは、シリア政府を強化するため、数千人のシーア派民兵に武器を与え、訓練している。イスラエルは、イランが少なくとも8万人のシーア派戦闘員を補充したとしている。

シリアへの関与により、イラン政府がイスラエルと直接対決する状況が初めて生じ、最近ではいくつか大規模な衝突が起きている。イスラエル政府関係者は、隣国シリアにイラン政府やヒズボラが恒久的に軍事的な足場を築く事態は絶対に許さないと語る。

もし核合意が崩壊すれば、シリアのシーア派武装組織がイスラエルに攻撃を仕掛けることをイランが押しとどめる理由はほとんどなくなる。

イランと、イランの支配下にあるシリア内勢力が、クルド人勢力支援のためシリア北部と東部に駐留している約2000人の米軍部隊に圧力をかける可能性もある。

イラン最高指導者の側近は4月、シリアとその同盟によって、米軍がシリア東部から追いやられることを望むと発言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中