最新記事

ISIS

厳罰に処せられる「ISISの外国人妻」たち

2018年5月23日(水)16時20分
ジュリアン・コソフ

15歳で「ISISの花嫁」になったドイツ人ヴェンツェル。写真はモスルでイラク兵に捕まったところ YOUTUBE

<ヨーロッパからわざわざISISに加わり戦闘員の妻になった女性たちは、その狂信者ぶりが災いして「被害者」とは認められず、イラクの女性より厳しく罰せられる>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)に属していたとされ、イラクで身柄を拘束されている1000人近くにのぼる女性たちのうち、40人以上に対して死刑判決が下された。

ISISは、イラク政府軍によるに数カ月におよぶ掃討作戦で多くの犠牲者を出し、敗北した。2017年12月、イラク第2の都市でISISの主要拠点だったモスルが陥落したのがその象徴だ。

その後、ISISの戦闘員ではないかという疑いをかけられた約2万人が身柄を拘束されたが、その多くは、110カ国から集結した外国人戦闘員だった。シリアとイラクにまたがる地域にあった自称「カリフ制国家」と命運を共にしていた者たちだ。

これらの人々の中には、ISIS戦闘員の夫と行動を共にしていた妻たち数百人のほか、ヨーロッパ諸国やトルコ、ロシア、中央アジア諸国から単身ISISの支配地域に入り、組織によって決められた戦闘員と、自らの意志で結婚した女性たちも数多く存在する。

英ガーディアン紙によると、乳児や幼い子どもを抱える者も多いこれらの女性たちは現在、イラクの首都バグダッドにある中央刑事裁判所で、被告として即決裁判に立たされている。

外国人女性にはより厳しい刑が待つ

ISISの壊滅に至った多くの戦闘の中で、全員が夫を失ったこれらの女性たちは、自分たちはだまされてISIS入りした被害者だとして無罪を主張する。だがこの主張は、ほとんど受け入れられていない。とくに外国人女性の場合はほとんど信用さない。

「イラクの裁判官や政府、国民の考え方は、外国人の被告がISISの支配地域で生活することを選んだ以上、その行為にはある程度の主体性があり、本人の責任も大きい、というものだ」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのイラク担当上級研究員、ベルキス・ウィリーはガーディアンに語った。

「イラク人女性の場合は事情が異なり、被害者だという証拠があれば減刑されることもある。だが、外国人女性が自ら飛行機のチケットを買い、国境を越え、(ISIS入りするという)選択をした場合、はるかに厳しい刑になる」

こうした「ISISの花嫁」の中でも最年少だった1人が、ドイツ人の女子生徒、リンダ・ヴェンツェルだ。ヴェンツェルは、インターネットで勧誘され、15歳の若さでISISに加わった。その後、解放されたモスルの街で、がれきの中に身を潜めているところを、イラク軍部隊に拘束された。

モスルでイラク兵らに連行されるドイツ人少女、リンダ・ヴェンツェル


ドイツメディアの報道によると、現在17歳になったヴェンツェルは、ISISの構成員だったことで5年、イラクに不法入国したことでさらに1年の懲役刑を受けたという。

「一生を台無しにしてしまった」と、ヴェンツェルはバグダッドの刑務所にやってきた母に言ったという。「どうしてイスラム国に行くなどというばかげたことを思いついたのか、自分でもわからない」

ヴェンツェルは死刑を恐れていたが、同じISIS戦闘員の外国人未亡人10人とともに、懲役刑に服しているという。一方、トルコ人女性1人は既に死刑を執行されたと、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは伝えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中