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専業主婦を産み続ける「高度成長期の影」 日本はいつまで「専業主婦前提」OSを使うのか

2018年5月22日(火)20時40分
中野 円佳(ジャーナリスト)※東洋経済オンラインより転載

一部思い込みもあるだろうが、彼女たちからは「働き始められない」理由が、いくらでも出てくる。 夫の稼ぎがそれなりにあり、働かなくても済むからというケースも多いものの、専業主婦世帯のうち12%程度は貧困に陥っているとの指摘もある(周 燕飛、2015 「専業主婦世帯の貧困:その実態と要因」〈RIETIディスカッションペーパー〉)

今の「専業主婦前提社会」では主婦業が忙しいから働けない、働けないから専業主婦前提社会が維持され、主婦業だけで忙しくなる。このループは明らかに存在し、専業主婦前提社会を強固なものにしている。

社会のOSが昭和の高度成長期のまま

これらを知らずに、女性たちに働き出て活躍せよというのは、ムリというものだ。

そもそも日本における「サラリーマン」という働き方は、1950年代半ばからの高度経済成長期に、都市部への人口流入とともに激増した。それまでの農業や自営業は家族ぐるみで働き、女性の労働力率も高ければ、子どもも家事や稼業に駆り出されていた。それに対し、核家族で団地に住む「サラリーマン」スタイルは男性が正社員で一家の稼ぎ主となり、専業主婦が支えることを前提としてきた仕組みだ。

夫が長時間労働を担い、子どもは3歳まで家庭でみる。専業主婦が将来の労働力である子どもや、激務の夫を家庭で癒し、職場などの「生産労働」へと再び送り込む。このような家庭での家事労働を、社会学では「再生産労働」と呼ぶ。こうした妻の支えを前提として、家族手当が払われ、会社が家族ごと丸抱えで責任を負うような仕組みが企業の福利厚生や給与体系に盛り込まれてきた。

このスタイルが始まり、過労死や育児ノイローゼなどのリスクを包含しながらも一見うまくいっているように見えていたのは、たかだか1955年ごろから、女性の就労率がかつてないほど低くなった1975年ごろのピークを挟んだ数十年間のことではある。

しかし、近年、正社員になれない男性が増え、なれたとしても終身雇用が怪しくなり、扶養手当、家族手当を持たない企業も増え始めている。政府も女性に外で働いてもらうための配偶者(専業主婦)控除の見直しの過程で企業の扶養手当も見直すことを呼び掛けている。ときに孤独な育児の延長にある虐待の問題や、長時間労働がさまざまにもたらす害悪も、もはや見逃せないものになっている。

これまで、日本は国が費用を負担しない子育てや教育の大部分を女性が家庭で補い、それを企業が手当などで支給してきた。その手当がカットされ、家庭内の無償労働はますます無償になりつつある。にもかかわらず、企業側でも専業主婦が働き手を支えてくれるという前提の制度が残っている場合があるし、社会全体はバージョンアップできていない。

女性活躍と言いながら、一定の収入以下に抑えるインセンティブが働く税や社会保障の仕組み、配偶者が仕事をやめるキッカケになりやすい転勤の仕組みなどはあまり変わらず、働き始めようと思っても子どもを預けるところがない。非正規の仕事は低賃金に抑えられており、働き方改革は道半ばで柔軟な働き方を認めてくれる場所はまだ少ない。

もちろん専業主婦あるいは夫が専業主夫になる片働きスタイルを続けたい、続けられる、あるいは一時期そのようになる家庭がまだまだあるだろうし、もちろんあっていい。しかし、共働きが実態的に数として専業主婦世帯を凌駕し、男性稼ぎ主モデルのリスクが高まっている中で、社会のOSは「共働き前提社会」にしておく必要がないか。

家事育児を誰か1人がつきっきりで見ることを前提にした社会を、企業の仕組みとしても、子育て制度の枠組みとしても、見直していく必要があるのではないか。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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