最新記事

北朝鮮情勢

中国、北朝鮮を「中国式改革開放」へ誘導──「核凍結」の裏で

2018年4月23日(月)15時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

習近平新時代の中国の「特色ある社会主義思想」を明記した憲法に誓いを立てる習近平国家主席(3月17日) Thomas Peter- REUTERS

北朝鮮が核凍結などを宣言したことに関し、中国は自国が説得し続けてきた対話路線と改革開放路線の結実と礼賛している。改革開放へと誘導してきた中国の歩みから、今後の中朝関係と北朝鮮のゆくえを考察する。

核凍結とミサイル発射中止を宣言した北朝鮮

金正恩委員長は4月20日に開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、「いかなる核実験も、中長距離および大陸間弾道ミサイルの発射も必要なくなった」と述べ、21日から核実験と弾道ミサイルの発射を中止すると宣言した。北部にある核実験場もその使命を終えたとのこと。

ただし、「核の威嚇や挑発がない限り、核兵器を絶対に使用しない」という条件を付けており、暗に「米韓の出方次第だ」と、南北首脳会談、特に米朝首脳会談への牽制もしている形だ。

それに対して中国は

中国では、中国共産党の機関紙「人民日報」をはじめ中央テレビ局CCTVなど多くの党および政府のメディアが一斉に金正恩の決断を礼賛し、さまざまな特集を組んでいる。

中国は早くから一貫して対話路線と改革開放路線を北朝鮮に要求してきただけに、ようやく中国の主張が実り始めたと、自画自賛しながら金正恩の決断を讃えている。

中国が北朝鮮の言動に危機感を覚え、6者会談(6ヵ国協議、6ヵ国会談、6者会合とも)に金正日(キム・ジョンイル)総書記(総書記は多数ある肩書の一つ。以下すべて敬称略)を誘い込むために動き始めたのは2003年3月だ。胡錦濤は2003年3月の全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選ばれると直ちに、「北朝鮮核危機対応小組」を結成して、胡錦濤自らが組長に就任し、第二次北朝鮮核危機に対応すべく、6者会談の基本枠組みの構築に着手した。

国家主席に選出される前の3月8日、胡錦濤は当時の銭其シン(せん・きしん)副総理、王毅外交副部長などを北朝鮮に派遣して金正日の説得に当たった。

胡錦濤は金成日に、「戦争の準備をせずに、対話によって問題を解決し、改革開放により経済建設に専念してくれ」と頼んだのだ。しかし金正日は「北朝鮮の事情は中国とは違う」として、この申し出を当初は受け入れようとしなかった。

そこで胡錦濤は「6者会談を進めていけば、いずれ米朝首脳会談にもつながり、悲願の休戦協定を平和条約(終戦協定)に持っていくことも可能だ」と金正日を説得した。すると金正日は「それならば」と、ようやく承諾したと、中国の記録には残っている。

こうして6者会談が2003年8月から始まったのだが、このとき中国は北朝鮮に以下の3つの要求を出している。

1.北朝鮮は経済的自立に努力すること。

2.北朝鮮は中国式の改革開放を推進すること。

3.北朝鮮が大規模殺傷性の武器の研究開発を終結させ周辺国家に脅威を与えないようになってこそ、中国は初めて北朝鮮の国際社会における安全を保障し、かつ北朝鮮の経済発展を支援することができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中