最新記事

シリア

化学兵器で傷ついた「東グータ」でまたアサドの虐殺が始まった

2018年2月22日(木)16時08分
ジャック・ムーア

2月7日、シリア政府軍に包囲された東グータ地区で Bassam Khabieh-REUTERS

<シリアで反体制派が拠点とする東グータ地区を政府軍が集中的に空爆した。化学兵器が使用された疑惑がある2013年の攻撃以来最悪規模の死者数だ>

シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区は2013年以来、シリア政府軍に完全に包囲され、深刻な人道危機に陥っている。現地の支援団体や監視団体によれば、7年に及ぶシリア内戦の中でも、2月19日と20日にあった政府軍の空爆による死者は過去最悪規模だという。

シリア政府軍は2月19日、約40万人の市民が暮らす東グータを集中的に空爆し、市民100人以上が死亡、数百人が負傷した。

シリアの広範囲に情報網を持つ在英NGOシリア人権監視団(SOHR)によれば、翌2月20日の空爆でさらに数十人が死亡。2日間の集中的な空爆で、194人の市民が死亡し、負傷者は850人に上ったという。

同地区は内戦勃発以来、シリアのバシャル・アサド大統領の退陣を求める反体制派の要衝として、戦闘員らの主要拠点となってきた。

シリア政府軍の戦闘機による今回の爆撃は病院を意図的に狙ったものだ、と国際医療団体「シリア医療救援組織連合(UOSSM)」は言った。

シリアの反体制派組織「シリア交渉委員会」(SNC)の代表ナスル・アル・ハリーリーは、シリア政府軍による東グータへの空爆が激化したことから、アサドには反体制派との交渉に向き合う意思が「一切ない」ことがはっきりした、と滞在先のブリュッセルでAFP通信に語った。

「ロシアとイランから露骨な支援を受けるアサド政権は、罪のない女性や子どもたちの虐殺現場へと東グータを変貌させた」と、アル・ハリーリーは言う。

アサド政権を支援するロシアとイランは、人口が集中するシリアの主要都市をアサドが失わないよう軍事的にも政府軍を支援してきた。反体制派やイスラム武装組織が掌握し激戦地となった北部アレッポを、2016年12月にアサドが制圧できたのもイランとロシアの支援があったからだ。

「東グータで今起きているのは戦争犯罪だ。戦争犯罪に関して国際法は非常に明確な線引きをしているが、シリアでは国際法そのものが適用されない」

2013年には化学兵器を使用

シリア政府軍による2月19日の空爆の翌日、反体制派は報復としてダマスカスを砲撃し、少なくとも市民8人が死亡した。

反体制派と有力武装組織「ジャイシュ・アル・イスラム」などのスンニ派武装組織は、東グータを拠点にしている。そのせいで政府軍に完全に包囲された市民は、最低限の食料も医療品も底をつき、極度の困難を余儀なくされている。砲撃や爆撃で負傷しても、道路が封鎖されて外部に搬送できないため必要な治療も受けられずにいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明

ビジネス

米、中国企業2社に制裁 SMIC向けに半導体製造設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中