最新記事

米朝関係

対北朝鮮交渉の時間切れ迫る 対話模索する米国務省担当の孤立無援

2017年11月8日(水)17時15分


北朝鮮側のショック

匿名を条件に取材に応じてくれたある米当局者は、ユン特別代表が外交的に「命綱のない」状態に置かれており、外交的解決よりも経済制裁と軍事的な威嚇を重視する政権中枢のアプローチと、十分に連携を取れていないという。

ユン特別代表の過去1年間における外交成果の1つは、オスロとニューヨークでの北朝鮮当局者との秘密交渉により、22歳のワームビアさんを同国から解放したことだ。ユン氏は6月に首都平壌に飛び、北朝鮮の医療施設からワームビアさんを取り戻した。

本件に詳しい米国政府筋によれば、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長は、オスロでユン特別代表と会談した際、ワームビアさんの容態の深刻さを認識していなかったという。

この情報提供者によれば、ワームビアさんの容態を知った崔局長は「ショックを受け」、ユン特別代表はただちに米国に召還されてニューヨークで北朝鮮外交官と面会し、これがワームビアさんの帰国に直結したという。

国務省当局者によれば、ワームビアさんの死去は、この時点で米朝関係を冷却する要因になったため、ユン特別代表の努力は微妙なものになったという。

「暗黒の状況に陥る」

国務省の当局者によれば、北朝鮮政府に対するトランプ大統領の軍事的な威嚇にもかかわらず、ユン特別代表は「外交的な働きかけを減らせば、暗黒の状況に陥る可能性が増す」と考えているという。

たとえそうであっても、トランプ大統領の言動によって、同盟国や恐らく北朝鮮も、大統領や彼の政権がそもそも外交に関して、またユン氏の任務に関して、どの程度本気なのか疑問を抱いている。

トランプ大統領は、政権内の専門家の提言に反し、米朝間の対立を「人格化」してしまい、正恩氏を「ちびのロケットマン」と嘲笑した。国家安全保障関係の高官によれば、一部の専門家は、これが非生産的な結果につながり得ると警告しているという。

だが別の当局者は、トランプ氏は5月に「金氏と会えれば光栄だ」と発言しており、最近では正恩氏に対して新たな「口撃」を手控えており、これまでとは違うアプローチに対する期待が生まれているという。

ある韓国政府当局者は、米国がそもそも朝鮮半島への関与を確保したいのであれば、将来の交渉を加速させるために、北朝鮮との窓口になる人物を用意しておくことが必要だと語っている。

だが米政権のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は最近NHKに対して、「われわれは延々と続く交渉を開始する余裕はない。北朝鮮はこうした交渉を隠れみのにして、核兵器・ミサイル開発計画を続けていく」と語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2日に3兆円超規模の円買い介入の可能性、7日当預予

ワールド

OECD、英成長率予想引き下げ 来年はG7中最下位

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中