最新記事

ノーベル賞

なぜノーベル平和賞の受賞者は、その後に世界の「失望」を招くのか

2017年10月4日(水)10時45分


あまりに高い代償

スー・チー氏を厳しく批判している1人が、ツツ氏だ。「親愛なる妹」と呼ぶスー・チー氏に宛てた9月7日付けの書簡で、同氏は「ミャンマーにおける最高権力者に登りつめたことの政治的な代償が、あなたの沈黙だとすれば、その代償はあまりにも大きい」と記した。

9月19日、スー・チー氏はラカイン州における人権侵害を非難し、違反者は処罰されると述べた。このメッセージの語調は西側諸国の外交・援助当局者から歓迎されたが、国際的な批判をかわせるだけの十分な行動が伴っているのかを疑う声もある。

ストックホルム国際平和研究所のダン・スミス所長は、この1991年のノーベル平和賞がロヒンギャ族に害をもたらしている可能性さえあると話している。

「彼女にはある種のオーラがある」と同所長はスー・チー氏について語った。国際社会での輝かしい名声が、ロヒンギャに対する多年にわたる迫害の「真のおぞましさを隠蔽しているのではないか」と言う。

「ロヒンギャ問題に関する質問に対して、彼女が『どうして他の問題ではなく、その問題にだけ関心を注ぐのか』と答えると、人々はつい、好意的に解釈してしまう」

スー・チー氏は、南アフリカのネルソン・マンデラ氏と同様、政治犯から国家指導者へと登りつめた、めったにない成功者である。マンデラ氏は5年にわたって南アフリカ初の黒人大統領を務めた後、その名声にほぼ傷を負わないまま引退した。だが、アパルトヘイト時代の解放運動における彼の同志たちのなかには、公職にあるあいだにスキャンダルに直面した者もいる。

「(名声が損なわれるのは)恐らく、人権と一般市民の擁護者という大胆で英雄的なイメージから離れ、妥協に満ちた、もっと汚い政治の世界に入っていく際の避けがたい動きなのだろう」と所長は言う。

聖人と罪人

聖人でさえ批判を免れない。1979年のノーベル平和賞を受賞した修道女のマザー・テレサは昨年、ローマ法王フランシスコによってカトリックの「聖人」の列に加えられた。だが1994年には、彼女の運営するコルカタのホスピスが、死期の近い患者の診察をせず、強力な鎮痛剤も与えていないとして、英国の医学専門誌「ランセット」に批判されている。

2012年に欧州連合(EU)に平和賞を与えるという決定も、当時から批判を浴びている。当時、EU本部は加盟国ギリシャに対して苛酷な財政支援条件を課していたが、多くのエコノミストは、こうした条件がギリシャ国民の生活を破壊したと指摘。またツツ氏らを中心に、EUは軍事力を行使する組織であるとの批判もあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル貿易黒字、10月は予想上回る大幅増 主要品

ワールド

インドのサービスPMI、10月は5カ月ぶり低水準 

ビジネス

実質消費支出9月は+1.8%、5カ月連続増 自動車

ワールド

カザフスタン、アブラハム合意に参加 トランプ氏が発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中