最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

傷ついた人々が95万人──ウガンダの難民キャンプにて

2017年7月11日(火)17時10分
いとうせいこう

ごった返す難民登録所。夕方になっても人は並び続ける(スマホ撮影)

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く

インベピの難民登録所

ito0711b.jpg

人、人、人だ

インベピ居住区の外来診療施設からまた土ぼこりのデコボコ道を行き、俺たちは難民の受付をしているという場所へ移動した。

あたりは南スーダンから逃れてきた人々であふれ返っており、点々と例のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が配布した銀色の遮光シートで作られたテントがあった。そこに男も女も子供も歩き回っていた。全員が難民の方々だった。

ひとつの大きなテントが左手にあり、その前に何本もの木の枝が立っていて、それぞれが赤いビニール紐でつながれている。よく見れば、それが人を並ばせるための仕組みになっているのだった。ただし俺たちが訪れたのが夕方前だったので、すでに当日の作業は終わっていた。

そのテントでは『国境なき医師団(MSF)』が他団体と共に、まず5才未満の子供たちにワクチンを打つのだそうだ。中に入って見学させてもらい、入り口近くに置かれた小さなテーブルの近くへ行ってMSFの現地看護師に質問すると、こころよく記録帳を開いてくれた。その日1日でポリオのワクチンが273人に、はしかが534人、加えて、怪我をしていた15 歳から45歳の人18人に破傷風ワクチンが接種されたという。すごい数の難民がそこを訪れ、次々に注射されていることがわかった。なにしろ全体では2000人が1日ごとに流入し続けているのだ。

「これでも今日は少ないほうです」

と看護師は教えてくれたから、彼らの仕事が日々どれほどハードなのかがわかった。

向こう側にぎっしりと人が群れている大きなテントがあった。入りきれずに周囲に座り込んでいる人たちもいる。聞いてみると、そここそがインベピの難民登録所なのだそうで、のぞきみれば中に4卓ほどのテーブルがあり、その前にそれぞれびっしりと人が並んで順番を待っていた。全員がその日、南スーダンからたどり着いた人だという。

子供を抱く女性、老人、若い女性。色鮮やかな服を着ていても表情は暗く不安そうで、いつ怒り出してしまってもおかしくない雰囲気があった。

彼らはまったく理不尽な理由で故郷をあとにし、一家離散の状態で列をなしているのだった。

ito0711v.jpg

もはやひとつの町としての人ごみだ

.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=

ワールド

ウクライナ協議は「生産的」、ウィットコフ米特使が評

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中