最新記事

マレーシア

アイシャを覚えていますか? 金正男暗殺実行犯のインドネシア人女性の運命は

2017年6月5日(月)14時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

4月13日、クアラルンプール近郊セパンの裁判所を出るアイシャ被告 Lai Seng Sin-REUTERS

<クアラルンプール国際空港を舞台にした金正男暗殺事件。一時はマレーシアと北朝鮮の間も緊張したが、結局、北朝鮮国籍の容疑者や重要参考人は無事帰国。実行犯として残った女性2人の裁判で幕引きになるのか>

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏の暗殺事件で実行犯としてマレーシアで逮捕、殺人罪で起訴されているインドネシア国籍とベトナム国籍の2人の女性に対する裁判手続きが5月30日にマレーシアの首都クアラルンプール近郊のセパン地方裁判所で開かれた。

両被告が裁判所に出廷するのはこの日が3回目となるが、入廷の様子が報道陣に公開されるなどその姿が確認されたのは逮捕後初めて。両被告は不測の事態に備えて防弾チョッキを着用、周囲を武装した警察官に囲まれて伏し目がちに裁判所に入る様子が撮影された。

同日の裁判手続きでは、殺人容疑の起訴で有罪判決が下された場合には最高刑が死刑という重罪に当たることから、今後の裁判が地裁ではなく上位の高等裁判所に移管して行われることが決定された。初公判の日程などは1カ月以内に追って決定、通知されるという。

同日の手続きでは両被告は発言の機会がなかったが、弁護側からは検察側が証拠開示に非協力的で公正な裁判に影響を与えるとの不満が表明された。検察側は事件当時の防犯カメラの映像などを証拠として保有しているが、弁護側に開示していないと弁護団は主張した。これに対し検察側は裁判に向けて必要に応じて証拠は開示していく予定で、問題とは考えていないとの姿勢を示した。

2被告はスケープゴート?

起訴状などによると事件は今年2月13日、クアラルンプール国際空港で2人の女性被告が金正男氏の顔面に猛毒神経剤「VXガス」を塗り付けて殺害した。2人の実行犯のほかに北朝鮮国籍の男性、在クアラルンプール北朝鮮大使館員など8人が事件への関与を疑われたもののいずれも証拠不十分などで起訴されずに北朝鮮に全員が帰国したとされている。

金正男暗殺事件に関して逮捕、起訴されたのは結局実行犯の女性2人だけという異例の捜査経過をたどり、2人の裁判が間もなく本格的に始まることとなった。

2被告はこれまで金正男氏の顔面に液体物を塗り付けたことは認めているが、あくまで「日本のテレビのいたずら番組への出演と思っていた」「致命的な毒物とは知らされていなかった」などとして殺意を完全に否定している。しかし、検察側は事前に北朝鮮国籍の男性から手順の説明を受け、空港内で練習をしていたことや、実行直後にトイレで手を念入りに洗っていたことから顔に塗り付けた液体の正体も把握していたなどとした「殺意はあった」と認定、殺人罪での起訴に踏み切った。

インドネシア国籍のシティ・アイシャ被告(25)と暗殺事件に関するインドネシア国内での報道は、逮捕時の「アイシャは国際的陰謀の犠牲者」「アイシャを救済せよ」という同情的でセンセーショナルな論調からは時間の経過とともに沈静化し、現在では事実を淡々と伝える姿勢に変わってきている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中