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天津爆発

天津爆発関係者死刑判決――習近平暗殺陰謀説は瓦解

2016年11月14日(月)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 その習近平暗殺陰謀説論者が主張する根拠と、今般出された証拠との間の矛盾、および陰謀説論者の主張そのものの虚偽性を以下に列挙する。

 (1)陰謀説では、「習近平は大爆発があった翌日の2015年8月13日に、北戴河での会議を終えて、ちょうどこの爆発地点を通過して天津に向かうことになっていた。経路や時間帯に関しては極秘だが、習近平の身辺にスパイがいて、極秘情報を把握し、時間を合わせて習近平を暗殺しようとしていた」としている。しかし「8月12日夜半に決行してしまったのは、主犯者が時間を間違えたか、あるいは事件の大きさに恐れをなして、わざと時間をずらしたものと考えられる」などと書いている。この弁解はあまりに不自然で滑稽でさえある。ここまで大きな爆発事件を起こして習近平を暗殺しようとしているというのに「時間を間違える」というのはあり得ない話だろう。また、「わざと時間をずらした」という推論を裏付ける理由として、「威嚇のために」と書いているが、それにしては犠牲が大きすぎるのではないのか。実行犯も必ず死亡するし、これだけ多くの無辜の近隣住民に危害を与える必要はないだろう。これもまた、いかなる説得力もない。

 (2)陰謀説論者は「主犯者は、周永康が逮捕されたことに対する恨みを抱く元周永康一派で、その報復のために習近平を暗殺しようとした」としている。中国の腐敗官僚を何だと思っているのだろうか?中国には「日本の忠臣蔵の世界はない」!腐敗官僚たちは腹黒い計算だけでつながっていて、「主君のための報復」などという日本流の忠誠心などは皆無で、利益を得られる親分が捕まれば、他の安全な親分に乗り換えるか、大金とともに海外逃亡するのが関の山。日本の「忠臣蔵の世界」と勘違いしてはいけない。こういったデマに乗ってしまうこと自体、あまりに日本的である。

 (3)裁判に出された証拠によれば、爆発を起こした物流会社の倉庫にあった危険物の一つはニトロセルロース(硝化綿)で、これは日本の危険物安全データシートなど数多くのデータにより「自然発火」することが指摘されている。自然発火する一番大きな原因は「乾燥」で、「衝撃」や「摩擦」がそれをさらに助長するとのこと。物流会社の倉庫には規定を遥かに上回る数のコンテナがうず高く積まれており、しかも多種にわたる危険物が混在して乱雑に積まれ、高さ(数量)制限も遥かに超えていたという。一定の湿度を保たせるようにしておかなければならない措置に関して手抜きし、過積載や運搬時による不適切な扱いで、衝撃や内部摩擦が起き、夜中辺りになって遂に限界を越えて発火しても不自然ではない。それが周りに積み上げてあった他の危険化学薬品に燃え移り硝酸アンモニウムにも引火して爆発を起こしたとのこと。

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