最新記事

2016米大統領選

トランプを勝利させた「白人対マイノリティ」の人種ファクター

2016年11月9日(水)18時00分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 ところが、蓋を明けてみたら、黒人の投票数は前回2回の大統領選を大きく下回った。「黒人大統領」のオバマを応援するというモチベーションがなくなったからだろう。

 そして、白人有権者は予想以上に多く投票した。白人有権者の不満を積極的に取り込んだトランプがこの票を集めた。この差が、思いがけない州での逆転につながった。

 トランプは、予備選当初から「イスラム教徒によるテロ」「ヒスパニック系移民と都市部の黒人の暴力」「職を奪う移民」といったイメージを与え続け、「アメリカを、白人の国のままにしたい」と考える白人有権者が、堂々とソーシャルメディアでそういった意見を語れるようにした。

 差別的な発言を繰り返すトランプが社会に与える影響に恐怖を覚えるマイノリティは、ヒラリーを支持した。アメリカの人口動態は劇的に変わりつつある。アメリカは、どんどん「マイノリティ」「無宗教」「都市型」「ジェンダーフリー」の国になりつつあり、現在は過渡期だ。

 だが、メディアがそれについて語れば語るほど、アメリカでマジョリティ(多数派)としての地位を失いつつある白人有権者は恐れ、反発を覚えたのかもしれない。

 トランプの「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)」という選挙スローガンと「アメリカを優先する」というメッセージの本質は、「アメリカを、マイノリティや移民が乗っ取る前の、居心地がよい白人の国に戻そう」ということだ。トランプに投票した裕福な白人有権者の言葉からは、そういったセンティメント(心情)を感じる。

【参考記事】ヒスパニックが多いフロリダ州で、トランプが逆転勝利した意味

 アメリカの人々は、オバマ大統領の「希望」にひかれた。だが、今回はエスタブリッシュメント(既存政治)に対する「不満」と「怒り」がエネルギーの源となった。

 これからトランプが直面する問題は、不満を抱える白人有権者に過剰な約束をしたことだ。

 トランプ次期大統領には、「メキシコとの国境に壁を作る」「オバマケアより安くてすばらしい医療制度を作る」「職が外国に行くのを防ぎ、高給の職を沢山作る」という選挙公約を実現するために必要な経験や政治手腕はない。

 その結果、アメリカの景気が悪化し、生活が今よりも苦しくなり、病気になっても医療保険に加入できなくなったら、トランプを支持した人たちは、今度は怒りをどこにぶつけるのだろうか?

 トランプがまずやるべきことは、大統領選で票を取るために作り上げたペルソナ(人物像)を捨てることだ。

 そして、自分に票を投じてくれた人々の期待に応えるべく、国民生活を良くする政策に誠実に取り組む。一方で自分を支持しなかった半数の国民が安心して生活できるような言動を取ることだ。

 大統領選ではマイノリティや移民への差別で票を取ったとしても、実際には差別に反対する毅然とした大統領になれば、4年後の再選も可能かもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、中東情勢悪化で安全資産志向

ビジネス

米国株式市場=下落、イラン情勢を警戒

ワールド

トランプ氏、イランの米領土攻撃懸念せず FBIは脅

ワールド

米軍、イラン機雷敷設船28隻を破壊=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 7
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 8
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 9
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 10
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中