最新記事

米大統領選

トランプが敗北しても彼があおった憎悪は消えない

2016年11月4日(金)10時40分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト)

Carlo Allegri-REUTERS

<米共和党を変質させた史上最も危険な大統領候補トランプは、選挙後のアメリカに醜悪な置き土産を残す>

 選挙のたびに、これは「われわれの世代にとって最も重要な選挙だ」と論じるのが、アメリカの政治アナリストのお決まりのパターンだ。いつもなら大げさだと言うところだが、今回の大統領選に限っては認めていい。

 共和党のドナルド・トランプはアメリカ史上最も危険な大統領候補だ。白人至上主義を掲げ、共和党を極右政党に変えつつある。16年の大統領選はトランプの大統領としての適性を問う国民投票と化した。とすると投票日が迫るなか、いま一度この人物の言動を振り返る必要がある。

 トランプは自分を見つめることも感情を抑えることもない。衝動のままに振る舞うだけだ。あきれるほどに無知だが、事実を知ろうとしないばかりか、事実の重要性が分かっていない。

 嘘のうまさにかけては天才的だ。ただし、すぐにボロが出る。彼に性的暴行を受けたと告発している女性は十数人いるが、その1人について、彼は一度も会ったことがないと主張。その舌の根の乾かぬうちに、何十年か前に飛行機でトランプとその女性のやりとりを見たという「目撃者」を引っ張り出して身の潔白を証明しようとした。

 これはうっかりミスではない。トランプ側の目的は疑いを晴らすことではなく、有権者をけむに巻いて疑惑をもみ消すことだ。

【参考記事】クリントンよりトランプの肩を持ったFBI長官

 トランプは病的なまでに他者を利用し虐待する。「トランプ大学」はだまされやすい顧客から法外な授業料を取り、怪しげな投資ノウハウを伝授する詐欺まがいのビジネスだったという。

 女は粗末に扱えば言うことを聞く――そう豪語してはばからないトランプ。その言葉どおり、見知らぬ女性の体を触ったと自慢したくせに、被害を訴えられると、「あんなブスは触る気にもならない」と相手を侮辱した。

 おまけにテロ対策として、豚の血に浸した銃弾でイスラム教徒を銃殺する手もある、などとうそぶく始末。アメリカの国益と国際的な評価をこれ以上損なう発言があるだろうか。

「第2のトランプ」の脅威

 トランプの政策は空疎なばかりか矛盾もしている。富裕層への増税を叫んだかと思えば大幅減税を約束し、外国に駐留する米軍を撤退させるとわめいたかと思えば、石油を収奪するために恒久的に駐留させると断言する。いったい何が本音なのか。

 彼の発言に一貫性や意味を求めても無駄だ。これらは政策ではないどころか、熟慮したアイデアですらない。その場で相手を言い負かすか、争点をはぐらかすための発言にすぎず、用が済めば忘れられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、4月は前年比4.0%の大幅減 3月復

ワールド

豪中銀、インフレ予想を上方修正 25年半ばまで利下

ワールド

ピュリツァー賞、ロイターが2部門受賞 公益部門は米

ワールド

中仏首脳、イラン核問題の「政治的解決」訴え=中国国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中