最新記事

アメリカ政治

ポスト冷戦の民主党を再生させたビル・クリントン

2016年10月24日(月)14時33分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 大統領になってからも仕事に集中しているときは同様の傾向を見せ、ホワイト・ハウスのスタッフの間では、「大統領は不眠症ではないか」という噂が出るほど、活力的だったという。

 クリントン政権で統合参謀本部議長を務め、ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官になったコリン・パウエルが「何でも吸収するスポンジのようだ」と形容したように、記憶力のよさもずば抜けていた。

 彼の自伝を一読すればわかるが、クリントンは有名無名を問わず、一度でも会ったことのある人物の顔と名前、行ったことのある都市の街並みや風景、はるか昔の地方選挙の思い出にいたるまで、絶対に忘れないのである。

 大統領就任後のあるとき、クリントンはある人物と親しげに話しこんでいた。それを見て側近が尋ねた。

「ちょっと、教えてください。あの人はどなたですか?」

 クリントンはその人物との出会いについて、詳細に説明しはじめた。「1986年に私が全米知事会議に出たとき、教育改革に関する白書を書くように言われてね。彼は某知事のスタッフで、それで〔後略〕」

「なるほど、興味深いお話ですね。あの人とはその後も連絡を取っていたんですね?」

 クリントンは首を横に振った。「いいや。それっきり会ってない」

 側近はクリントンを見て言った。「10年前にたった1回会ったきりですか?」

 クリントンは側近の目を見て答えた。「一晩一緒に仕事したんだよ。どうして彼のことを忘れられる?」

 また、クリントンはアーサー・シュレジンジャーといった高名な学者からは強靭なレジリエンスを長所と指摘されてきた。

 彼の人生は公私ともにトラブルの連続だったと言っても過言ではない。貧しかった幼少期、州知事の再選に失敗、88年の民主党全国党大会の演説での大失敗、あるいは92年の民主党予備選挙においてスキャンダルに足をすくわれそうになったとき、政権発足後の弾劾騒動――。

 クリントンは、トラブル発生後は即座にダメージ・コントロールに取り掛かり、いつも短期間で失地を挽回した。

 過ちを犯すことは避けられないとしても、被害の拡大を最小限にとどめ、立ち直る努力をする。そして、どんな困難に直面しても決して人生への情熱を失わないのが、クリントンだった。

 政権初期にクリントンの相談役を務めたデイビッド・ガーゲンは複数の大統領に仕えたが、クリントンのレジリエンスはほかの大統領とは比べようがないほど強靭だったと振り返る。ガーゲンは、この点ではリンカーンに比肩する強さを持った大統領だと評価している。

 彼の政治家としての成功は、ひとえに彼の人格的優越によるところが大きいであろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中