最新記事

キャリア

レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた

2016年10月18日(火)12時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 アンドリュー・ゾッリとアン・マリー・ヒーリーは、共著書『レジリエンス 復活力――あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か』(ダイヤモンド社)のなかで、レジリエンスについて、「劇的に変化する状況に直面しても、システム、企業、または人が、その目的の主眼を見失うことなく本来の姿を保つ能力」という包括的な定義を提唱している。この「目的の主眼を見失うことなく本来の姿を保つ」という部分から、レジリエンスとは、物事を切り抜けてうまく対処する能力以上の何かであることがわかる。より健全な平衡状態に到達すべく成長する能力とでも言えるだろうか。

 人におけるレジリエンスとは、立ち直る能力を意味する。ビジネスで言うなら、危機的な局面に陥ったのち、通常業務を再開する能力ということになる。短期間の事柄に用いられることもある。失望したり自分を否定されたりしたあとに「魔力」が復活する、というような場合だ。このほか、より深いレベルで自尊心と目的意識を取り戻すことを意味する場合もある。要するに、健康で幸福な生活とその持続を脅かすあらゆる出来事――人生の道のりの紆余曲折に対応する能力がレジリエンスだ。こうした出来事には、確実に起こるとは限らないこと(失業による仕事や地位の喪失など)もあれば、絶対に避けて通れないこと(加齢、健康状態の悪化、死別)もある。

 レジリエンスはタフな精神とは違うが、両者には密接な関係がある。タフな精神とは、決断力や意志の強さのような性格をも包括する概念であり、ときに他者の目を通して物事を見ようとしないことをも意味する。だがレジリエンスは、おとなしい人にも押しの強い人にも同じように備わるものだ。

レジリエンスという概念はどのように広まったか?

「レジリエンス――個人、コミュニティまたはシステムが、適正な水準の機能、構造、アイデンティティを維持するために適応する能力」 英国内閣府、2011年3月

 レジリエンスは、心理学でも半世紀以上前から注目されてきた。初期の研究では、第二次世界大戦で難民となった子供たちについて、その後の人生の追跡調査が行われた。なかにはホロコーストを生き抜いた子供たちもいた。心理学者たちが不思議に思ったのは、情緒的に安定した、目的意識のある生活にすぐになじんだ子供もいれば、そうした子供たちの兄弟姉妹も含めて、心の傷を抱えたまま成長する子供もいたことだった。そのため、初期の研究では子供の発達に大きな焦点が当てられたが、のちの研究では、人生を混乱に陥れる事件や出来事に対する成人の反応へと関心が移っていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中