最新記事

アメリカ社会

alt-right(オルタナ右翼)とはようするに何なのか

2016年9月5日(月)17時10分
八田真行(駿河台大学経済経営学部専任講師、GLOCOM客員研究員)

alt-rightは既存の保守主義とどのように違うのか

 では、alt-rightはこの3派とどのように違うのか。

 alt-rightの統一されたイデオロギーは存在しないのではっきりしたことは言えないのだが、とりあえず注目すべき点は、alt-rightがネット発の運動だということである。伝統的な右派政治運動、あるいはNational Reviewのような保守思想とつながりの深い雑誌等ではなく、保守系とされるウェブメディアや掲示板、チャットルーム、TwitterやFacebook等における議論から育ってきた。また、ミームの拡散のようなソーシャル・メディアの活用やネット荒らし(trolling)、果てはサイバー攻撃など、良きにつけ悪きに付けネットの使い方が洗練されている。だから、「アメリカのネトウヨ」なわけだ。ちなみにalt-rightは若者による運動と言われることもあるが、平均年齢は3〜40歳程度と比較的高めであるとも言われている(ただし、これには諸説ある)。

 さらに、インディアナ大学の研究チームがハッシュタグ#AltRightMeansの付いたツイート約5万件の分析をしていて、それによればalt-rightで頻出するテーマは3つに大別されるとのことである。

1. 反フェミニズム、反多文化主義、反ポリティカル・コレクトネス、白人の罪悪感と特権

 反フェミ、反多文化主義(ようするに移民排斥)、反PCはalt-rightの根幹であり、相互に関連している。これは、一言で言えば「自分が言いたいことを言えない」ということへの不満なのだと思う。言うとリベラルに言葉狩りされ、人非人のごとく糾弾される(と、少なくとも当人たちは思っている)。こうしたことへの不満がalt-rightを駆動する最大のエネルギーなのだ。ちなみに、こうした自分たちに批判的なリベラルのことをalt-rightではSJW(Social Justice Warrior)と呼び、攻撃対象としている。SJWは直訳すれば「社会正義の闘士」「正義の味方」ということで、別に悪い意味ではないのだが、alt-right的には、むしろ独りよがりの抑圧的な糾弾者、くらいの蔑称となっている。

 更に言えば、alt-rightはいわゆるアイデンティティ・ポリティクスから多くを学んだのである。アイデンティティ・ポリティクスとは、女性や黒人など社会的に抑圧されている集団が、マイノリティであることをてこに政治的な目標を達成しようとする活動のことだが、その手法が多くalt-rightに取り入れられている。よって、自分たちが批判されると、白人差別だ!ヘイトスピーチだ!などと反撃するようになったのだ(実際、そう言われても仕方が無いようなアホなリベラルというのも結構いるのだが)。裏を返せば、白人を中心とするalt-rightは、すでに自分たちがマイノリティだと思っているのである。これが、移民や多文化主義への嫌悪、排外主義につながっている。

 なお、最後の白人の罪悪感と特権(white guilt and privilege)というのは、ようするに白人は特別であるということと、それとは裏腹に白人が不当に迫害されているという考え方である。黒人が黒人であることに誇りを持つと言っても誰も批判しないのに、白人が白人であることに誇りを持つなどと言うとすぐレイシスト扱いされる(そしてアメリカでレイシスト扱いされるということは社会的な破滅である)、というような。

2. レイシズム、ミソジニー

 1とかぶる部分もあるが、露骨なレイシズムやミソジニー(女性嫌悪)的言説もよく見かける。レイシズムに関しては、素朴な白人至上主義や陰謀論的反ユダヤ主義もあれば、いわゆるレイシャリズム(racialism)、あるいはレイス・リアリズム―人種間、あるいは個々の人間の間において遺伝子レベルで知的・身体的能力に違いがあり、平等は幻想である―といった、疑似科学的、優生学的な装いをまとったものもある。アメリカのレイシズムというと黒人差別という印象が強いのだが、私が見たところ、むしろ「平等の否定」あるいは「格差の肯定」のほうに力点が置かれているように思う(ので、黒人やユダヤ人のalt-rightというのも皆無ではない)。先に書いた新反動主義の一部のように、人種差別というよりは能力差別、知能差別に力点を置く派もある。

 alt-rightにおけるミソジニー、あるいはマノスフィア(manosphere、男性中心世界とでも訳すべきか)に関してはいろいろとややこしいので、詳しい話は別稿に回したい。とりあえず、もてない男、性的弱者がalt-rightに走る、というような単純な話ではないと思う。

 一応強調しておくと、日本ではalt-rightにはアニメオタクが多い、あるいはアニオタがalt-rightになる、というような言説が見られるが、これは違うと思う。何人かの著名なalt-rightがアニメ好きであることは間違いないし、Twitter等でアニメアイコンを使う人がいるのも事実だが、他のウェブメディアのコメント欄等を見ると大多数というほどではないし、アニメ・ヘイターもいる。そもそも女性のalt-rightも相当数いる(alt-rightのミソジニーは強烈なので、これはこれで意味がよく分からないのだが)。ただ、日本に関して、移民を入れない同質的な日本はもめ事が少なくて豊かで平和でうらやましい、というような肯定的な言説は散見される。

3. ヒラリー・クリントンへの嫌悪というか憎悪

 ヒラリーへの攻撃もまたすさまじい。ヒラリーはパワフルな女性でリベラルで、おまけに長年ワシントンを牛耳ってきたエスタブリッシュメント、インサイダーだ。alt-rightに叩かれる要素が揃いすぎているわけである。

 加えて、そもそも民主主義や現在のアメリカの政治体制そのものへの懐疑のようなものがあり、それが新反動主義のような形で噴出している。こうした一派も、一般にはalt-rightの一部とされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀総裁、次の利上げへ賃金・物価の上昇持続を重視 

ビジネス

ドルが一時2円弱急落、日銀総裁会見後に急動意 レー

ワールド

ベトナム共産党、ラム書記長を再任 結束を維持すると

ビジネス

仏総合PMI、1月速報48.6 予想外の50割れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中