最新記事

メディア

ニュース価値の有無で言論を制限する危うさ

2016年8月29日(月)19時59分
ロバート・コールマン

John Pendygraft-REUTERS

<元プロレスラーのハルク・ホーガンは、友人の妻とセックス中の動画を隠し撮りしてネットに流したゴシップサイト、ゴーカーを訴え、多額の損害賠償を命じられたサイトは先週、閉鎖した。だがこれが、ホーガンのセックス隠し撮りよりもう少しマシな内容だったらどうなのか? 陪審員がそれを決めるので大丈夫なのか?> (写真は、破産したゴーカー・メディアの創業者ニック・デントン)

 セレブのセックス動画にニュース価値があるかどうかは別として、そもそもニュース価値の有無で言論を自由を制限するのはどうなのか。ましてニュース価値を決めるのが、一般の陪審員で大丈夫なのか。

 今年3月、フロリダ州の陪審は、被告でゴシップサイトの「ゴーカー」に対して、元プロレスラーの原告ハルク・ホーガンに総額1億4000万ドルの賠償金を支払うよう命じた。ゴーカーは、ホーガンが親友の妻とセックスしているところを隠し撮りして動画の一部をインターネット上に公開、ホーガンがプライバシー侵害で訴えていた。

 多額の賠償金支払いを背負った出版元のゴーカーメディアは経営難に陥った。5月に賠償金の減額を求めたが退けられ、6月には連邦破産法11条の適用を申請し事実上経営破たん。米テレビ局ユニビジョンへの身売りが決まった。そして8月22日、サイトを閉鎖した。

 セレブや政治家の私生活をネタに13年以上続いた低俗なゴシップサイトに対し、その終焉を惜しむ声はほとんどない。

【参考記事】欧米社会がこだわる「言論の自由」の本質

 それどころかホーガンの勝訴に触発されて、ドナルド・トランプの妻であるメラニア・トランプも同様の訴訟を起こす構えだ。複数のメディアが自分について「不愉快で有害で、虚偽の」報道をしたというのが理由だ。

危なっかしい「言論の自由」

 メディア業界が合衆国憲法修正第一条に定められた「言論の自由」の解釈に重大な影響を与えると懸念を募らせる一方、いかに修正第一条でもあらゆる言論が保護されるわけではないとゴーカーの消滅を喜ぶ声もある。いわゆる「混雑した劇場で偽って火事と叫ぶ」ような「明確にして差し迫った危険」がある場合、言論の自由は保護されないという考え方だ。

【参考記事】公開状「習近平は下野せよ」嫌疑で拘束か?――中国のコラムニスト

 この有名な句の語源になった判例が、「シェンク対アメリカ合衆国事件」だ。被告のチャールズ・シェンクは第一次世界大戦中、徴兵制度や戦争そのものに反対するパンフレットを配布し、スパイ活動法違反の罪で起訴された。判決で最高裁判所の判事オリバー・ウェンデル・ホルムズは、シェンクの行為には戦時下にある国家に対する「明確にして差し迫った危険」があるため、言論の自由が制限され得るという判断基準を初めて示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中