最新記事

オリンピック

オリンピック最大の敗者は開催都市

2016年8月23日(火)17時11分
クリストファー・コープマン(米ジョージメイソン大学研究員)、 トマス・サヴィッジ(米ジョージメイソン大学准教授)

 しかし、輝くものが何でも金メダルと思ったら大間違い。開催国にとって、夏季オリンピックはほぼ確実に1度限りのイベントだ。これまでに4都市だけが2度以上の夏季オリンピックを開催しているが、その実現にロンドンは64年(1948年、2012年)、アテネは108年(1896年、2004年)、ロサンゼルスは52年(1932年、1984年)、そしてパリは24年(1900年、1924年)の年月を要している。

 これが意味するのは、オリンピック開催国は大会後、巨大な複合施設の処理に長いこと悩むことになるということだ。開催都市が維持と整備の継続に費用を支払う一方で、一部の施設は何十年もの間、使われなくなる。2008年北京の夏季オリンピックで使用された会場の大半は、北京のはずれで放棄されたままになっている。地元のアーティストや自動車学校の教習生などがこれらの会場を利用してきたが、これらの会場をつくって維持するのにかかる何十億ドルという費用に見合う価値が、果たしてそれにあるのだろうか?

観光、建設、輸出

 オリンピックは大会の直前・直後に観光や投資を増加させるだろうか。大方の予想とは裏腹に、こうした事実は明白でない。2012年にイギリスが夏季オリンピックを開催した月の外国人訪問客は、2011年の同月と比べて約5パーセント減少した。ギリシャでは、アテネで開かれた2004年夏季オリンピック直後の3カ月間で、7万人が職を失った(おもに建設業)。

 そして、長期的な経済活動の増加という約束はどうなのか? ある最近の研究から、オリンピック招致に失敗した場合、その国の輸出は、実際に開催できた場合と同じくらい増加することがわかった。重要なのは、立候補することによって、その国がビジネスに対してオープンであるという信号が送信されることなのだ。

 つまるところ、オリンピックの開催は、大会で選手たちが競争するのと同じようなものだ。目標達成に向けた大いなる努力とスタミナ、意欲が必要になる。だが、誘致に関して言えば、勝つことは負けることよりも悪いのかもしれない。

 リオはオリンピックの栄光に浴している今をたっぷり楽しむべきだ。9月には、その間違いなくその代償を払うことになるのだから。

This article first appeared on the Foundation for Economic Education site.

Christopher Koopman is a research fellow with the Project for the Study of American Capitalism at George Mason University's Mercatus Center. Thomas Savidge is a program associate for the State and Local Policy Project at the Mercatus Center.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ルハンスク州全域を支配下に 

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中