最新記事

全人代

国有企業改革が本当はできない中国――大切なのは党か国か人民か?

2016年3月10日(木)19時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 民間に開放して、仮に全てが民営企業になれば、人民が国を支えることになり、中国共産党による一党支配体制など、一瞬で崩壊してしまうだろう。つまり、民主化が起きてしまうということである。

 国有企業は「国民経済」であり、人民の税金で成り立っているわけだから、つきつめれば、13億人の人民一人一人が株主だ。それを国家が肩代わりして運営しているのだが、実は「国家」ではなく、「党が運営している」と言っても過言ではない。

 「国有企業」は実質上は、「党有企業」という造語で表現してもいいほど、「党」のものなのである。

 中国の指導者は「党は人民の僕(しもべ)である」という言葉を、まるで接頭語のように常に言い続けている。

 しかし中国共産党の指導者は、毛沢東以来、最優先してきたのは「党の拡大」と「党の安定的な繁栄」であり、人民はその手段に過ぎない。国家さえ、党を温存させるための手段なのだ。

 拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に描いたように、毛沢東は中国共産党が拡大するために、敵方である蒋介石・国民党軍の軍事情報を日本軍に売っていた。それにより殺された国民党軍の兵士は「中国人民」であり、「中華民族」である。人民を売り、民族を売ってでも、党の繁栄と温存を優先する中国共産党の体質は、誕生からこんにちまで、何も変わっていない。

 習近平氏が中国共産党生誕「百周年記念」として新五カ年計画の節目にしている2020年(実質上は2021年)は、人民の犠牲の上に築こうとしている繁栄であるという見方ができなくはない。

「紅い皇帝」は、「党の繁栄」にしがみついて中国という国家を滅亡させるのか、それとも党の温存を捨ててでも「人民」を優先し、「国家の存続」を重んじるという英断を選択できるのか、このあとの5年間をじっくり見てみよう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中