最新記事

iPhone

「解除拒否」アップルの誤算

2016年3月3日(木)17時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

 つまりジョージ・ワシントン大学のオリン・カー教授(法律学)が偏りのない立場から論理的に主張するように、「このケースには(不法な差し押さえを禁じる)合衆国憲法修正第4条は当てはまらない」のだ。
 
 アップルには、法的突破口になりそうなものが1つある。政府は1789年に制定された「全令状法」を持ち出している。これは法の執行に必要ならどんな令状も発行できるという法律で、盗聴行為を正当化する際によく適用されるものだ。

 しかし最近の最高裁の判例を見ると、盗聴を命じられた企業が当該事案から「距離」があったり、結果的に「理不尽な負担」を負ったり、協力が必要でなかったりした場合は従わなくてもいいとしている。

 アップル側はこの「距離」を主張している。既に売れた携帯とは利害関係がないからだ。しかし同社がかつてⅰPhone70台のロック解除に協力したことを考えると、この論拠は弱い。では、セキュリティー機能の変更は「理不尽な負担」だろうか。筆者を含め、中立的な立場の人なら、理不尽な負担と断言はできないだろう。

 もともと「理不尽な負担」は曖昧な表現だ。もしも「物理的」な負担を証明できない場合でも、アップル側は「顧客情報を守り抜く企業」という名声に、ひいては収益に対する負担の発生を論じることも可能だ。ただし、ここでも過去に70回も要請に応じた事実がネックになる。もちろんアップルには超の付く敏腕弁護士がいるだろうから、もっと説得力のある議論を持ち出すかもしれない。

 いずれにせよ、もっと興味深い論点がある。FBIは本当にファルークの携帯の中身が欲しいのか、という疑問だ。伝えられるところでは、既にFBIは通信会社から「メタデータ」、つまり通話の時刻、相手、通話していた時間などについての基本データを入手しているのだ。

結果は分かり切っている

 ファルークが外国人テロリストと話をしたのなら、メタデータに形跡が残っているはず。だがマイケル・ロジャーズNSA(国家安全保障局)局長は、メタデータにその形跡はなかったと語っている(ファルークは別に2台の電話機を持っていたが、犯行前に2台とも破壊しているので真相は不明)。

 FBIが何を捜しているのかも不明だが、そんなことはどうでもいい。テロ事案である以上、捜査当局にはすべての情報を入手する権利がある。しかしFBIは入手を急いでいないらしい。緊急性があるなら、NSAあたりが外国情報監視法(FISA)に基づく裁判所命令や司法長官の許可を得て、とっくに力ずくで情報を入手しているはずだ。内緒で政府に協力するハッカーはいくらでもいる。

【参考記事】ティム・クックの決断とサイバー軍産複合体の行方

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中