最新記事

「イスラム国」

偽装難民のテロリストが欧州の新たな脅威に

EU諸国の国境管理の甘さに乗じてISISなどのイスラム過激派が続々とヨーロッパに密入国している

2015年2月5日(木)16時43分
ジャック・ムーア

厳戒態勢 トルコ国境に押し寄せたシリア難民。トルコ経由で欧州に潜入するテロリストも多い Kadir Celikcan-Reuters

 EU加盟国間の連携不足による国境管理の甘さに乗じて、テロリストが続々とヨーロッパに密入国しているらしい。狙いはスンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)などのイスラム過激派と戦うアメリカ主導の有志連合に参加した国々への報復だ。

 匿名のISISメンバーがニュースサイトのバズフィードに語ったところでは、シリア難民に偽装した多くの工作員がトルコ経由でEU圏に送り込まれているという。英王立国際問題研究所のリチャード・ホイットマンは、テロの脅威は「明らかに国境を超えた複合的問題だが、各国政府はこの件で主導権を手放したがらない」と指摘する。

 密入国者は最も管理や警備が甘い場所を突いてくると、ホイットマンは言う。そのいい例がトルコとギリシャの国境だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、シリアからトルコに逃れた難民は160万人以上。その多くがさらにトルコからギリシャやイタリアなどに入ろうとする可能性がある。

 一旦EU圏に入れば、後は域内を自由に動き回れる。加盟国間の移動の自由を定めたシェンゲン協定があるからだ。EUの国境警備を担う欧州対外国境管理協力機関フロンテックスは、13年にはシリア難民を中心とする「かつてない規模の移民希望者」がトルコからギリシャに殺到したと報告している。

 欧州警察機関(ユーロポール)によると、EU圏からイラクやシリアに向かった戦闘員志願者は推定5000人。中東からヨーロッパに密入国した潜在的テロリストの人数は把握できていないという。

 問題は国家の枠を超えた対テロ機関がないことだと、ホイットマンは言う。「EU全体を統括する政治的権限を持つ組織が必要だ。(テロの脅威に)対抗する方法はこれしかない」

[2015年2月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中