最新記事

イラク

ISISは本当に1700人も処刑したのか

大量処刑の真偽はともかく、イスラム教過激派組織ISISの進撃の恐怖は本物だ

2014年6月17日(火)16時48分
ジョシュア・キーティング

分裂の危機 少数派・スンニ派の過激派組織ISISを迎え撃とうと軍に志願したイラク人(バグダッド) Wissm al-Okili-Reuters

 アルカイダから派生したスンニ派過激派組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、ISILとも呼ばれる)の恐怖の進撃は止まらない。彼らは先週、イラク第2の都市モスルから北部の主要都市ティクリートまでを制圧し、いまや首都バグダッドに迫りつつある。

 イラクの広範な地域を掌握し続ける彼らが先週末、写真を公開した。そこには拘束したイラク軍兵士を大量虐殺する様子が収められている。ISISはティクリートで1700人ものシーア派兵士を処刑したと豪語している。

 公開された写真に映し出されるのは、私服の男たちが地面に横たわり銃殺される場面だ。その中の一枚には「彼らは自分の足で歩いて死に場所に向かった」との写真説明が付いている。

 ここ数年の中東地域で起こった虐殺事件としては最悪レベルの残虐さだろう。シリアのバシャル・アサド大統領が反体制派に対して行った13年の化学兵器攻撃は国際社会による軍事介入寸前の事態にまでなったが、その上をいく規模だ。

 イラク軍は写真が本物であり、大量虐殺は実際に行われたとしている。だが誰もがそう断言できるわけでもなさそうだ。英BBCの指摘によれば、ISISは通常、写真ではなくビデオ映像を公開しており、静止画の写真のほうが真偽の確認がむずかしい。今回の写真を調べた人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員はニューヨーク・タイムズ紙で「本物とは確信できない」と発言している。

 殺害者数や写真の真偽はさておき、ISISが捕虜や市民に対して行ったとする残虐行為の報告は現時点では拡大する一方だ。国連人権高等弁務官のナバネセム・ピレーによれば、ISISが「モスルのある通りでイラク軍兵士と一般市民17人を集めて殺害した」との報告や、制圧した各都市での銃殺事件の報告が入って来ているという。国境を越えたシリア側でもISISによる虐殺事件が報じられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中