最新記事

エネルギー

環境破壊に突き進むオーストラリア

2014年5月15日(木)16時29分
リネット・アイブ

「最悪のタイミングだ」とローランスは言う。オーストラリアには、今すぐ保護が必要な生態系がいくつもある。例えば絶滅危惧種のフクロモモンガダマシがすむビクトリア州のユーカリ林は、伐採や山火事で危機に瀕している。

「私の故郷のアメリカ西部でも、保守派は『森を閉鎖している』と言って環境保護派を非難してきた」とローランスは言う。「これは保守派の常套句だ。彼らは昔から、手を出したくても出せない地域を『閉鎖されている』と表現してきた」

 サンゴ礁研究の権威でオーストラリア国立大学で教えるクリス・フルトンは、アボット政権に速やかな発想の転換を求めている。

「現政権にとって自然は人間に奉仕するべきものであり、人間が搾取し利用するべきもの。彼らに言わせれば、木材や食料や石炭を供給できない自然に価値はない」とフルトンは指摘する。「それは19世紀、いや18世紀の自然観だ。人間が欲しがるものを提供し続けていたら、自然は崩壊してしまう」

 早くから生態系保護の重要性を説いてきたアメリカのトーマス・ラブジョイは、今年11月にシドニーで世界国立公園会議が開かれる前に、オーストラリア政府が林業政策を「新たな視点」から見直すことを期待しているという。

 ラブジョイの見るところ、アボット政権は「目先の経済効果」しか考えていない。「地球温暖化にも生物学的多様性にも、もっと心を砕かなくてはいけない」とラブジョイは言う。

 環境を取り巻く状況が悪化したのは、政治の右傾化のせいだとローランスは考える。連邦政府のみならず、主な州政府でも与党は保守政党だ。

「この国で多くの生態系が危機に瀕していることを示す科学的根拠はいくらでもある」とローランスは言う。「だがアボットはまるで原理主義者のようだ。『この連中は今まで私に投票しなかったし、これからもしないだろう』という計算をして、自分に票を投じそうにない有権者は切り捨ててしまう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ケリング、成長回復に店舗網縮小と「グッチ」依存低

ワールド

米、台湾への7億ドル相当の防空ミサイルシステム売却

ワールド

日中局長協議、反論し適切な対応強く求めた=官房長官

ワールド

マスク氏、ホワイトハウス夕食会に出席 トランプ氏と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中