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腐敗国家

ロシア「民主化改革」の欺瞞

プーチンの政敵ホドルコフスキーの刑期延長ではっきりしたメドベージェフの本性

2011年2月3日(木)13時04分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

 かつてロシア最大の石油会社だったユコスの元社長ミハイル・ホドルコフスキーに昨年末、再び有罪判決が下った。ホドルコフスキーは既に実刑を言い渡されて服役中だが、今回の判決で民主化へ向けた国民の期待は無残に打ち砕かれた。

 世論調査によると、今回の裁判で問われた横領罪についてホドルコフスキーが有罪だと考えるロシア人はたった13%。彼の有罪判決は、メドベージェフ大統領の大胆な公約が空約束だったことを印象付けた。

 大統領就任から1年たった09年、メドベージェフは「蔓延する腐敗」の一掃を宣言。「ロシアは民主的な方法で発展を遂げられることをわれわれ自身に、そして世界に示そうではないか」と国民に呼び掛けた。

 その後の年次報告演説でも、大統領はロシア社会の「法律無視」を厳しく糾弾。警察や官僚が権限を利用して私腹を肥やしている実態を非難した。この演説で国民は勇気づけられたが、今回の判決でメドベージェフへの信頼は地に落ちた。

 ホドルコフスキーの公判は04年から始まった。このとき問われた脱税の罪についてはある程度根拠があったと、多くの専門家がみる。しかし、ホドルコフスキーが野党に資金援助をしていたことが、プーチン大統領(当時)の神経を逆なでしたことも否めない。ホドルコフスキーの逮捕後にユコスは解体され、政府にコネを持つ官僚たちがその資産を食いものにした。

 今回の横領罪はばかげたぬれ衣とでも言うべきもの。彼と共同経営者のプラトン・レベジェフは250億ドル相当の石油(98〜03年までのユコスの産油量のほぼ全量に当たる)を横領し、利益を資金洗浄したとされる。だが、検察側の主張は前回の裁判と矛盾するだけでなく、その立証は穴だらけ。あまりにとっぴな主張に裁判官が噴き出す場面もあった。

 今回の裁判の背景には、ユコス解体で巨利を貪った官僚たちの圧力があったと言われる。彼らは、ホドルコフスキーが刑期を終えて、2012年に出所することを恐れていた。今回の判決で刑期は延長されて計14年となり、彼とレベジェフは2017年まで服役することになった。

 法律無視の風潮は今もロシアに蔓延しているばかりか、権力者がそれを最大限に利用していることは明らかだ。メドベージェフの改革の呼び声もむなしく、ロシアは今なお内側から腐り続けている。

[2011年1月12日号掲載]

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