最新記事

ローマ法王

少年虐待はアイルランドで起こったのに

聖職者の少年に対する性的虐待が発覚し教会離れが進むカトリック国を避け、隣りのイギリスを訪問した狙い

2010年9月22日(水)15時53分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

 アイルランドといえば国民の大半がカトリック教徒。しかし長年にわたり多数の少年が聖職者から性的虐待を受けていたことが発覚して以来、教会離れが深刻化している。最近では、毎週ミサに通う人はおよそ40%まで低下している。

 そんななか先週、ローマ法王ベネディクト16世がヨーロッパで初めて訪問する英語圏の国として選んだのはアイルランドではなく、イギリスだった。滞在中にエリザベス女王や、英国国教会の最高位聖職者であるカンタベリー大主教のローワン・ウィリアムズと会談。野外ミサにも出席し、スーザン・ボイルの歌声に耳を傾けた。

 今回の訪英の狙いの1つは、英国国教会との融和だ。80年代にエリザベス女王と前法王ヨハネ・パウロ2世が和解に向けて一歩を踏み出したものの、英国国教会とカトリック教会の関係は良好とは言い難い。最近では、法王が英国国教会から改宗した聖職者を(妻帯者でも)受け入れると発表。それに対抗するように、ウィリアムズは11年の英国国教会の大主教会議を、長年「カトリックの国」だったアイルランドで開くと宣言した。

 聖書研究家のN・T・ライトは、この機会にカンタベリー大主教と法王が話し合い、キリスト教の再興を図ってほしいと語る。「人々は心の支えを求めているが、教会への不信感も根強い。新しい形で神の言葉を広めなければ」

 編集者で作家のポール・イリーは、密室でのトップ会談が「教会政治」や神学論争に終始したのではないかと懸念する。「法王が女性の聖職者は認められないと言えば、大主教が小児性愛者の聖職者が問題だとやり返す。そんな不毛な話し合いだったのではないか」

 イギリスの最近の世論調査では、「神はいない」または「いるかどうか分からない」と答えた人が3割以上。不毛な神学論争をしている場合ではなさそうだ。

[2010年9月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中