最新記事

中東和平

薄氷のイスラエル兵士解放交渉

2009年12月2日(水)15時17分
ケビン・ペライノ(エルサレム支局長)

 イスラム原理主義組織ハマスに拉致されたイスラエル兵1人の解放と引き換えに、イスラエルが約1000人のパレスチナ人政治犯の釈放に合意したと、イスラエルの複数のメディアが報じた。

 この合意ではパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハ幹部のマルワン・バルグティも釈放されるとされ、これにはイスラエル国内でも歓迎の声が聞かれた。同国の穏健派は以前から、2国家共存による中東和平を支持するマルワン・バルグティなら、まともな交渉相手たり得ると主張してきた。

 だがもう1人の「バルグティ」のために、交渉そのものが頓挫する恐れもある。ハマスはイスラエル人66人を殺した罪で04年に有罪となったアブドラ・バルグティの釈放まで要求しているのだ。

 だが解放交渉の難航は、ファタハにとっては好都合かもしれない。ファタハが主導するパレスチナ自治政府は混乱状態にあり、アッバス議長や一部の高官は辞任をほのめかしている。イスラエルが11月25日、ヨルダン川西岸における入植活動を一時凍結すると宣言したにもかかわらずだ。

 ハマスはマルワン・バルグティの解放を自らの手柄とし、さらに勢いづくだろう。アッバスの立場はさらに弱くなる。和平交渉を前進させるには、強力な政治基盤を持った人物が必要なのだが......。

[2009年12月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パウエル氏利下げ拒否なら理事会が主導権を、トランプ

ビジネス

米雇用、7月+7.3万人で予想下回る 前月は大幅下

ビジネス

訂正-ダイムラー・トラック、米関税で数億ユーロの損

ビジネス

トランプ政権、肥満治療薬を試験的に公的医療保険の対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中