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戦争・紛争

シリアとの対話に勝機あり

長年実現しなかったイスラエルとの和平が現実味を帯びてきた理由

2009年4月7日(火)16時14分
リチャード・ハース(外交評議会会長)

 「中東」という言葉と「好機」という言葉が一緒に使われることはめったにない。それには理由がある。中東の歴史は紛争の歴史と言っても過言ではないからだ。

 この地域に絶望感が漂う理由はほかにもある。教育の質、民主的な制度の有無、女性の扱いなど社会の進歩を示す多くの尺度で、中東はヨーロッパ、アジア、中南米、さらにはアフリカの大半の地域よりも後れを取っているからだ。

 そんな中東に今、好機到来の兆しが見える。60年以上も戦争状態にあったイスラエルとシリアの和平が実現する可能性が出てきた。

 シリアは最近イスラエルに攻撃を仕掛けた二つのイスラム原理主義組織(パレスチナのハマスとレバノンのヒズボラ)の主要な支援国であり、イスラエルは1年半前にシリアの「核施設」を空爆したばかりだ。にもかかわらず、和平実現の素地はある。

 和平への動きは意外な展開ではない。両国は過去にも部分的な合意に向けて交渉を重ねてきた。全面的な和平が実現しそうになったことも何度かある。

 和平協定の基本的な条件(イスラエルがゴラン高原全域をシリアに返還し、シリアはイスラエルを国家として承認する)はよく知られており、イスラエルの保守派の多くにも受け入れは可能だ。シリアのバシャル・アサド大統領はすでに10年近く政権の座にあり、国内の抵抗を抑えて和平協定を結ぶだけの力があるはずだ。

 筆者が先日、シリアの首都ダマスカスを訪れた際、同国の政府高官はパレスチナ問題の解決を先送りにしてイスラエルと和平を結ぶ用意があると話していた。シリアはイランと距離をおく用意もあるようだ。筆者が現地で会った人々は、イランとの緊密な関係の維持よりイラクとの関係構築にはるかに強い関心を寄せていた。

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