最新記事

ディズニー

なぜ実写版『リトル・マーメイド』は中国で大コケしたのか?

Disney's China Problem

2023年07月19日(水)13時12分
シャノン・パワー
『リトル・マーメイド』

世界でヒットした実写版『リトル・マーメイド』も中国市場では苦戦した ©2023 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<多様性への「政治的公正」が馴染まない? ディズニーが中国市場に食い込み続けるには「迎合」だけでなく、常に変わり続ける中国社会の変化を見極めなくてはならない>

当初の期待値が高ければ高いほど、外れたときの失望は深い。ディズニー映画の実写版『リトル・マーメイド』がそうだ。

 
 
 
 

巨大市場の中国では日本より2週間も早く5月26日に公開されたが、最初の週末の興行収入はわずか370万ドル前後。同時公開のアメリカだけで1億1700万ドル、全世界で4億1300万ドルも稼いだのに比べると、なんとも寂しい数字だ。

事は1つの作品の失敗にとどまらない。「多様性重視」に舵を切って以来、ディズニーは国内外の保守派の反発を買って、なにかとトラブル続き。「おいしい」はずの中国市場も、そうした価値観には背を向けている。

『リトル・マーメイド』に関して言えば、主役の人魚姫アリエルに黒人歌手ハリー・ベイリーを起用したことに対し、中国の映画ファンが人種差別的な拒否反応を示したとの見方がある。だが、不人気の理由はそれだけではない。

いわゆる「ゼロコロナ」政策の3年間、外界から途絶されていた中国の人々は外国、とりわけ欧米の映画への関心を失ったという指摘もある。

新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼んだ一部の政治家の無神経な言説も、中国人の心を傷つけた。

今年の上半期で見ると、中国市場で興行収入1億ドルの大台に乗った欧米の映画は、「ワイルド・スピード」シリーズの第10作『ファイヤーブースト』のみ。ちなみに5年前には、年間11本のハリウッド映画が1億ドル超えを記録していた。

中国人が抱いた違和感

「黒い肌の人魚姫」に中国の人が違和感を抱いたのは事実らしい。共産党系の大衆紙「環球時報」の英語版は社説で、「白雪姫と同様に人魚姫のイメージもみんなの心に焼き付いている。だから今回の配役には人々の想像力がついていけない」と指摘した。

しかし英ケント大学教授で中国のネット事情に詳しいオスカー・チョウに言わせると、問題は肌の色だけではなかった。

今回の実写版『リトル・マーメイド』は仕上がりが「安っぽく」、中国のファンがディズニー映画に寄せる「高い期待値」に達しなかった。そのせいで急速に失望感が広まった可能性が高いという。

「ディズニーが何かクリエーティブで革新的な試みをしたのは理解できる」と、チョウは言う。しかし「それが成功したとは思えない」。

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相が退陣表明、米関税で区切り 複数の後任候補

ワールド

石破首相が辞任表明、米大統領令「一つの区切り」 総

ワールド

インドは中国に奪われず、トランプ氏が発言修正

ワールド

26年G20サミット、トランプ氏の米ゴルフ場で開催
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 5

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:豪ワーホリ残酷物語

特集:豪ワーホリ残酷物語

2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は